「おそ松さん」総集編としての「なごみのおそ松」あるいは松野チョロ松の深層心理

8話観ました。

8話Aパート、おおむねブログで書いた通りでした。

ありがとうございました! 完!

 

で終わっても仕方がないのであの残酷ホンワカサスペンス劇が何を指すのかという話をしようと思います。

論点としては「松野チョロ松という男をこんな形で公式が提示してしまっていいの!?」です。

 

8話Aパートの骨子はこうです。

  • ミステリーパラレル
  • カラ松が殺され、刑事トド松が鑑識十四松を急かしているところに警部チョロ松が登場、「この事件は迷宮入りかもしれない」と言う
  • カラ松のダイイングメッセージは「ふくめん」、そして覆面の男一松が凶器を持ってそこに立っている(のに誰も気づかない)
  • チョロ松が「こんなときあの男がいてくれれば」と言ったところにおそ松が登場
  • おそ松は「なごみ探偵」、全然謎を解かずにただ現場の空気をかきまわして和ませるだけ
  • おそ松は現場を引っ掻き回し、死者が出まくり、途中で(犯人かと思われた)一松まで死ぬ
  • 最終的になごみすぎて真犯人までなごんで出てきてしまって事件は解決するがおぞましい数の犠牲者が出た
  • おそ松はこのような生活を続けているので借金が500万ある

このブログで言ったことはなかったと思いますがわたしの推し松はおそ松兄さんであの男を一日千円で飼って「毎日遊んで暮らそうよ~」と言われるためにはどうしたらいいんですか!? 臓器売ればいいですか!? 壺を買えばいいですか!? といった感じの生活を続けているので、この俺の推しがカワイイ2015autumn festaに動揺を隠せずほとんど泣きながら「かわいい」と言っていたのですが、それはそれとして

えげつない。

 

8話Aパートの骨子はこうです(Bパート以降に関しては別エントリを立てます)。

  • カラ松は死んだ(カラ松が死んだ話はもうしました)
  • カラ松を殺したのはおそらく一松、もしくはカラ松を殺したと言い張っているのが一松(カラ松を殺したのは一松だという話ももうしましたし、殺さなくてはならない理由の話もしました)
  • おそ松はとても有害だが、とても人望がある
  • チョロ松はおそ松の人望を認め、責任を押し付け、自由な行動を許す
  • チョロ松とおそ松が作ろうとする空気にトド松は抗おうとするも、抗うことができない(という話もおおむね書きました)
  • 実は常識人だがそれゆえに場の空気に流されてゆくモブキャラとしての十四松

「犠牲者はカラ松」という前提も「犯人は一松」という前提も(カラ松を殺した犯人は一松ではない可能性はあるのですが、一松が「カラ松を殺した犯人はおれだ」と言いたがっているのは確かです)、もうここまで来たら言及する必要はないと思います。既に十分書きましたので前項をご参照ください。

ストーリーの主軸を担うカースト上位がおそ松とチョロ松であることに関してももう言及する必要はないと思います。前項をご参照ください。

そしておそ松とチョロ松が作る空気の流れに流され、「社会人としての学び」を得てしまい、本来仕事熱心で常識的な感性を持っていたはずなのに、狂った空気に適応して無感覚になってしまうトド松に関しても、これまで一貫しておそ松のコントの相棒としておそ松のヨイショをやり(2話、4話、5話、7話とずっとトド松はおそ松に同調し立てる空気を作っています)、そしてパチンコ警察や7話Aパートを見ればトド松が「やらかしたらシメられてカースト最下層に叩き落とされる」ことは明確であり、おそ松のヨイショをやり続けなければならない理由は明示されているという本編にきれいに即しています。

十四松に関しては、これまでの情報からおそらく十四松は「常に空気を読み、家族の和を大切にし、自分がズッコケオモシロキャラを演じることによって場の空気を和ませてフォローをし、みんなが喧嘩をするのを止めて幸せになれるようにサポートをし、みんな楽しくしていられるように気を配っている」のだろうと予想はしているのですが、なにぶん十四松担当回は来週ですので、ひとまず保留ということで。ただこの十四松に関する見解は「なごみのおそ松」とズレてはいません。7話で一貫してフォローにフォローを重ねていた十四松はたぶん兄弟の中で最も常識人です(善意でやったけどズレてることと、あっちもこっちも立てようとするあまり結果的に裏目に出ていることと、空回って何の意味も成していないことがありますが)。

そして7話Dパートにおいておそ松は「このアニメはギャグアニメじゃなくて自己責任アニメです」と言ったばかりです。殺されるのも殺すのも、視聴者がそれを見てなにを感じるかも、みーんな、自己責任!

 

総集編でした。「ここまでのおそ松さんのあらすじ」です。

 

問題はチョロ松です。

 

おそ松は、一貫して「一生遊んで暮らそう」「日本酒行っちゃおう」「努力せずに世話されて生きていきたい」という姿勢を崩さず、「よかれと思って」兄弟の楽しみを台無しにし、兄弟の私生活に対して無理解、チビ太に対してもどうも何時間も自己主張しかしなかったらしく、無垢な笑顔でイヤミから歯を搾取して「また儲かっちゃうな、ハタ坊!」と言い放った男です。なんの悪意もない少年のような無邪気さを持っているのだけれど、やることなすこそ有害。(そこが本当にかわいいんだけど!)

他方「銭湯クイズ」という町内の男どもを巻き込んだ壮大なゲームを企画し、「親友」イヤミがあまりにも競馬で負けていると「いい加減勝ってあげて!」と叫び、大判焼きがうまく分けられなくて悩みつくした兄弟が寝そうになると「寝たら食うぞおれが!」と言って叩き起こす(いや、食っちゃえよもう)という、カリスマ性とすら言える人望があり、そしてこの男が人望を集めるのはあまりにもよくわかるという底抜けの明るさを持っています。(本当にかわいいですね!)

まあおそ松兄さんに関してはわたしの目は完全に濁っている自覚があるので冷静に論が展開できている自信がなかったんですが、しかし「なごみのおそ松」です。

なごみのおそ松という男には、カリスマ性とすら言える人望があり、同時に完全に害悪でしかなく、おぞましいほどの被害が出るけど、愛されているのです。

わたしの目は曇っていないな?

公式が言ったな?

言質を取ったな?

ありがとうございます!!!!!! おそ松兄さん世界で一番世界樹だよ~!

 

いやわたしの話はいいんですよ。すいませんどうも。

問題はチョロ松です。

チョロ松はそんなおそ松に対して、愛憎とも取れる態度を一貫して取ってきました。

自称「常識人」のチョロ松は、おそ松の突拍子もないプランやクズニート発言に対して一貫して「ツッコミ」役を担ってきました。「大人なんだから働かなきゃ」という焦りを抱いているチョロ松が「働かずに生きていきたい」と言っているおそ松にカウンターとして反論を続けるのは当然です。チョロ松のキャラクター設定は明確であり、あまり言葉を重ねる必要もないと思います。「常識人のツッコミ役、六つ子の正義にして良心」。これが松野チョロ松です。建前上の。

他方、チョロ松は、おそ松たったひとりを「兄さん」と呼び(カラ松は呼び捨てです)、「どーすんのおそ松兄さん」と訊ね、最終決定権をおそ松に委ねます。チョロ松はおそ松を兄としてリーダーとしてはっきりと扱っている。

またチョロ松はトド松の自立志向を「ドライモンスター」と呼んで問題視し、トド松がパチンコで勝てば筆頭に立ってリンチを行使し、大判焼きの平等な分配を語り、そして何より「デリバリーコント 本当は怖いイソップ童話」の立役者です。

「本当は怖いイソップ童話」は「仕事のことはノープランだ」「このまま平穏に暮らすだけじゃダメなのかなあ、人生」と言っている兄弟に対するカウンターです。「一攫千金を狙って釣りをしていたら、よくわからないものを手に入れたので、家宝にする」というストーリーを「なんか怖くない?」と兄弟に投げつけるチョロ松自身が、兄弟に「働け」と言ったのです。この童話の寓意はおそらくこうです。「一攫千金や不労所得は恐怖すべきものだ」。

「働け」と言うわりにトド松の就職を全く祝わない(それなりに楽しんでいる一松や十四松やカラ松、あっさりとトド松の努力を認めて差を付けられたとくやしがるおそ松に対し、チョロ松の反応は「ドライモンスターめ、切り捨てる気だな」です)チョロ松と、大判焼きを奪い合うために殺し合いをするなんてばからしいと言うチョロ松の思想は通底しています。

彼らは「平等」でなくてはならないとチョロ松は思っている。

「働けよ」と言い続けるのは、「ぼくが働くんだから、おまえらも働けよ」「だっておれたちは六つ子なんだから」です。彼は六つ子が同じレベルでいなくてはならない、と思っている。

そして例外が「おそ松兄さん」です。兄も弟もなくカラ松からトド松まで全員を平等な六つ子として扱うチョロ松が、なぜおそ松だけを「おそ松兄さん」と呼び、彼のリーダーシップをあてにするのか。

 

ここで思い出したいのですが、チョロ松は「アイドルオタク」です。

わたしずっと疑問だったんですが、このアニメにおいてアイドルが真っ先に指すものは自明ですよね。DVDでどういう扱いになるのかわからない伝説のアイドル、(旧)1話のF6です。

しかしチョロ松はF6の存在に対してずっとNOを喚いていたんですよ。

でもチョロ松はドルオタです。しかも(おそらくチョロ松が大分プロデュースに関わっていると思われる)トト子ちゃんを見るにつけ、固有のアイドルというよりアイドルという存在が好きです。つまりチョロ松が問題にしているのは「アイドルというのはそういうもんじゃないんだ、おまえらがやるな目が潰れる」ということです。

 

さてここで「なごみのおそ松」です。

警部に扮するチョロ松がなごみのおそ松を見つめて言う台詞、何もかもすべてが

 

アイドルに対するプロデューサーの台詞じゃないでしょうか。

 

就職するなら「カリスマ・レジェンド・人間国宝」と言うおそ松の、カリスマ性を最も認めているのはおそらくチョロ松です。そしてチョロ松はドルオタです。チョロ松以外のすべての点(十四松を留保)において、「なごみのおそ松」は「本編通りの内容」です。

つまりチョロ松は松野おそ松をアイドルとして認めているということになってしまう。

 

衝撃的な展開だしわたしもまさかと思うしなによりチョロ松本人から物言いが入りそうな結論なのですが、そうだとすると辻褄は合います。チョロ松にとっておそ松は場の空気をコントロールしリーダーとして君臨するにふさわしい男である。

そのくせチョロ松警部は「おそ松には500万の借金がある」と言及する。おそらくこれは「探偵としての活動の結果得てしまった借金」で、つまり「現場を引っ掻き回した結果発生した被害」で、つまり「チョロ松警部は現場の被害をおそ松におっ被せている」ものと思われます(実際おそ松が悪いのであたりまえなんですが)。

ちなみにかつて5話で提示されたカラ松の身代金が100万円、松野兄弟ひとりあたり100万円ということだと考えれば、つまりおそ松以外の兄弟合わせて500万。

 

つまり松野チョロ松は「あんたが長男なんだからリーダーだしあんたのカリスマ性は認めるし、だからあんたがおれたちの責任を取るんだよ」と言っているということになってしまう。

 

本編との整合性は取れます。取れますがほんとうにこれでいいのかチョロ松!?

いずれ来るであろうチョロ松担当回に期待が高まります!