「おかえり」一松とトド松の本当は怖いファミリーカーストゲーム・プレイ

5話Bパートでサイコパスの仮面を盛大に引っぺがされて内気な弱者であるという現実を兄弟に暴露する羽目になってしまった松野一松の捨て身の狂気(の演出)に盛大な拍手を! カムバック・ヒーロー!

トド松かわいそう。

 

おそ松さん7話が面白かったので性懲りもなくまたエントリを書いています。

<以下愚痴なので読まなくていいです>

正直TLの月曜配信組のためにツイートをタイムシフトしておくねくらいの気持ちでまとめたおそ松さん5話エントリがどうしてなのかは全く分からないがなぜかめちゃくちゃ話題になりTwitterでわたしのツイートだけでも4000RTくらいされ、ものすごくいろいろなリアクションが寄せられたのち最後には「イタい」「気持ち悪い」「もう観るのをやめたらどうか」「(二次創作のメインジャンル)にもう帰ってこないでください」「所詮腐女子の考察はカップリングに落とし込むことしか考えていなくて残念です」等の、「ねえそれ普通に悪口じゃない?」といったご意見がどんどん寄せられる次元に達したので、わたしは二年間楽しんで完全に人生相談のプラットフォームとしてご活用いただき3000答の記録を残したask.fmを封鎖し、Twitterのフォロー外通知を全部切り(なのでフォロー外からのリプライ一切見てません! ごめんね!)、平和な世界を取り戻したのですがここで7話のエントリを投げつけることによって束の間の平和がぶち破られる可能性は大いにあるんですが、

わたしの信頼できる友人とわたしを信頼してくれている質問者さんとの間に育まれていた小規模で平和でハートフルなインターネットライフはもう死んだので

もうどうでもいいです。7話の感想を書きます。またなんかあったらパソコンを閉じiPhoneをぶん投げてソファとプロレスをし、10本69円のにんじんと1本10円のだいこんと34円の水菜と69円のアボカドをディップしてサラダを作り1玉100円の白菜と10円のニラをみじん切りにして魂を込めて中力粉を練り上げ餃子を百くらい作り100円のメロンと68円のキウイと19円のグレープフルーツと198円のパイナップルで作ったサングリアと共にディナーを楽しみますので別にいいです(野菜が異常に安い話はわたしの小規模な生活におけるささやかな自慢です)。

「なぜギャグアニメをシリアスな話題として扱った程度のことで叩かれなくてはならなかったのか」というのも中々興味深い案件なんですがいまその話したら火に油って感じだし黙ってるね! みんな考えてみてね! なんでアニメの感想を書いた程度のことでこんな大騒ぎになったんだよ。アニメの感想だぞ。別に誰を傷つけるわけでもない罪のない遊びじゃないですか。

あ、もちろん「面白かった」「なるほどと思った」「新鮮な視座だった」「わたしもこう思いました」「5話正直つらかったがエントリを読んでつらいなりに視聴を続行しようと思った」という良いリアクションもたくさんいただきました。ありがとうございます。わたしはおそ松さんというアニメを本当にめちゃくちゃ楽しんでいるのであのアニメが現象として成功してほしいのでわたしのエントリを読んでおそ松さんの人気にささやかながら貢献できたというのならそれは本当に書いてよかったと思いました。みんなで作ろう! 覇権アニメ!

</以上愚痴でした長々とごめんね!>

 

おそ松さん7話において「ファミリーカースト」というものがついに公式で可視化されてしまった、というエントリです。

 

ちなみにファミリーカーストという概念はおそ松さんの話をしている人の間ではわりとメジャーな概念みたいで(みたいでというのはわたしはおそ松さんガチ勢の友人が極めて少なく二人くらいしかおらず、TwitterのRTは全部切っており、二次創作はほとんど読まないので、つまり完全に世間と没交渉の生活を送っているので世論に疎いのです)、うちのaskにもこういう質問が来ていました。3話まではまさかこのアニメがこんな過激な方向に行くとは思ってなかったんだよ……。

4話5話を経て「ヒエラルキーが存在していると考えるべきではないか」「弱い人間から処刑されるのではないか」という感想を抱きながら観ていたのですが、7話でついに本編内でピラミッドというかひし形状になっているヒエラルキーが図示化されて、まあそれは「社会における松野家という最底辺カースト」という自認だったんですが、とにかくトド松が自分を「そこに存在している」ことが「耐え難いと思っている」ということが明示された。

そしてトド松はそこから出ていくことができない。パチンコ警察のとき逃亡という手段を一切思いつかなかったのと同じように。

 

7話Aパートの骨子はこうです(なおBパートは切なくも美しいロードムービーで普通に良かったです)。

  • スタバァコォヒィ(みんな知ってる外資系大手チェーンだね!)への数週間のバイトを順調にこなし、人間関係を築き、「最底辺」の世界から脱出することができたことを心から喜ぶトド松
  • しかしそこに兄弟たちが現れ、トド松は兄弟たちに「皆はぼくの汚点なので、汚点を晒したくないから速やかに帰ってくれ」と言う
  • が、色々あってトド松が合コンに誘われていることとトド松が慶応に通っている大学生であると嘘をついていることが兄弟にバレてキレた兄弟は店内で暴れる
  • 数日後合コンでトド松は公開処刑されました

開始三分で「あっつらい! このあとどうなるか全部わかる!」というやつですね! 全部わかるのにさくさく面白く観れるのでさすがですね!

内容としては3話パチンコ警察(パチンコに推定六万以上勝ったトド松が、その金を持って自宅に帰ったら確実にケツ毛まで毟られることはわかりきっているのに、トド松はその金をどうしたらいいのか全く思いつくことができず、結局兄弟にバレてリンチされ金を巻き上げられるのを徒に待つことしかできなかった)の忠実なリフレインであり、「トド松は要領が良いことが常に強調されているにも関わらず、なぜ兄弟から逃げ出すことができないのか」という話です。

3話のパチンコ警察という話の時点で相当つらいんですが、それのつらさは、「兄弟に金を巻き上げられる」という側面自体よりも「トド松はなぜかその金をどうしたらいいのかわからない」という点にあります。

 

さて松野トド松の話をします。

松野トド松は絵に描いたような「要領のいい末っ子」です。こぎれいでそつのないファッションで身を固め、ハローワークで初対面の職員と連絡先を交換し、女の子と気軽なデートを楽しみ、良い子を演じて母親の心を掴み、結局のところ不動のリーダーであり発言権を掌握しているおそ松とへらへら仲良くコントをして兄弟ヒエラルキーの上位をキープし発言力を持ち、エスパーニャンコ登場の際には何はともあれビジネスチャンスのことを考えた、「逆になんでおまえはニートなんだ、どこででもやっていけるだろう、むしろ人材として有用すぎるだろう」というハイスペックを誇っています。

しかし末っ子が往々にして兄姉より要領がいいのは上の人間の失敗を観察して学習しているからであって、六つ子という同い年の群体の中で末っ子という名前を付けられているだけなのに要領がよくなるわけはなく、実は別に全然要領が良くはありません。というか、要領自体はきわめて良いんだけども、その要領の良さを発揮しきれないところがあって、結果として要領が良いところを兄弟に見つかると速やかに処刑されるという立場に立たされている。

パチンコ警察、トド松はどうも6万くらい勝ってるはずなのに、その金で例えば「今日はどっか泊まろう」とか、「とにかくあいつらの手の届かないところへ今だけでも逃げよう」とか、「友達の家に泊めてもらおう」とかいう発想に全く至らないんですよね。というか、その金を隠しておく秘密の口座のひとつもそもそも持っていない。

トド松が金の使い方を知らないかというとそんなことはなくて、少なくともファッションに気を使っているのだから、その推定6万で服を買えばよい。「女の子と遊びに行って服を買い、女の子にも服を買ってあげる」というあたりがトド松らしい豪遊のイメージでしょうか。最適解のひとつとしては、「とにかくこの金で今日はどこかに泊まろう(あるいは友達の家に泊めてもらおう)、それで明日は誰かと一緒にデートだ、誰を誘おうかな」というあたりだと思います。

でもトド松にはそれを発想することができない。

深夜零時を回るまで、トド松は金を抱えたまま、公園のベンチに座り込んでいることしかできなかった。完全に思考停止しています。トド松は公園に座り込んでいる間、「家に帰らなきゃ」と「家に帰りたくない」以外のなにも考えられなかった。

わたしの感想はこうです。「毒親に支配されてる子供みたいだ」

 

7話はたぶんあれ履歴書自体詐称しているのではないかと思うので(じゃないと履歴書を見ている上司から経歴がばれるから)その点に関しては確実に罪があるのですが、それまでトド松に流される方向で一応小さくなっていた兄弟が、トド松の経歴詐称および「合コン」というキーワードを聞いた瞬間豹変して攻撃態勢に入る(十四松以外、十四松は一貫してフォローをしようとしていましたね……)のは、経歴詐称自体を問題にしているわけではない。

「パチンコに勝ったこと」「おまえひとりがありもしない権利を得たように振る舞っていること」

「ラッキーだっただけのくせに」「嘘をついただけのくせに」

「不当な方法で、群体であることから逃れようとしている」から、松野トド松は処刑され、そして処刑され続けるのです。

 

松野トド松はどうして公園から旅立つことができず、なぜよりによって有名チェーンの路面店などをバイト先に選んでしまったのか(なぜ顔出しのないバイトを選ばないのか!)。彼は松野家と松野兄弟をあんなにも恥じていて脱出を願っているのに、どうして適切な方法で逃げ出すことができないのか。

 

さて松野一松の話をします。

松野一松は松野家四男、なにもかもどうでもいいという態度と、いつでも兄弟に流されているだけという姿勢と、他人とコミュニケーションできないというパブリックイメージを構築して、「兄弟の中で一番のクズは自分」と言い放っていた男です。猫が好きというか猫だけが友達だけれども飼っているわけではない。兄弟からは「犯罪者予備軍」と呼ばれ、また自分でもそう自称しました。

一松のキャラクター造形は7話に至るまでに非常に多角的に描かれていて、たとえば「他人とコミュニケーションできない犯罪者予備軍」と兄弟に呼ばれた2話において就職先で随一の適応力を誇りさっさと管理職に昇進しています(=コミュニケーションが取れている)。3話では十四松とプロレスごっこをやっているし、4話ではミュージシャンのコスプレ(たぶんhide)をしている。

「なにもかもどうでもいいから兄弟の言う通りにする」も「他人とコミュニケーションできない」も一松の「全て」ではありません。一松が5話で歌っている歌はGRAYの百花繚乱(YouTubeへリンクしています)だそうです(これはフォロワーさんから聞きました)。これの歌詞と5話の内容に関してもいろいろと衝撃的だったんですがとにかく一松には「特有の趣味」がある、しかもかなりはっきりした、自覚的に選択した趣味です。尾崎豊が好きみたいだけどとりあえずいまのところ歌詞の引用とかしたことないはずの(してたらすいません)カラ松より濃厚に趣味を打ち出していると言ってもいい。

 

そのうえで一松は5話で「本音」を暴露させられてしまう。5話で語られた一松の「本音」はこうです。

「どうしてぼくには友達ができないの? まあ友達になってもらえるような価値なんか自分にはないのは知ってるけど。寂しい。でも友達なんかいなくてもいい、ぼくにはみんながいるから」

「松野一松には兄弟がいるからほかの人間とコミュニケーションする必要はないとずっと思ってきた」一松は5話でそう暴露されてしまいました。

 

5話の感想は先日書きましたが、あそこではほとんど触れていませんが、一松の件をわたしはかなりまじめに危惧していました。

一松、2話(カラ松への攻撃性)、4話(面接における自己アピール「家族から犯罪者が出てもいいの」)と、「兄弟の中で最も何を考えているのかわからなくて、それは時として攻撃性を伴うので、アンタッチャブルである」というキャラクターとして家庭内の地位を盤石なものにしていて、それゆえに一松は家族のなかで「重要な人物」でした。4話面接における一松の「家族から犯罪者が出てもいいのか」という脅しは非常に効果的かつ有用だった。一松は家族から一目置かれ保護され、「クズであり続けることを承認される」ための方法として、自分はアンタッチャブルな存在であると主張していたのです。

しかしその魔法は5話でいったん解けました。

兄弟たちに「憐れまれて」しまった一松を、いま兄弟たちは優しく扱っていますが、同時にそれは自分の弱点を相手に知られてしまったということです。「本当はありきたりな内気で孤独で居場所のない青年にすぎな松野一松」が、次の「面接」、比喩的な意味で延々と家庭内で繰り返されるであろう「面接」において、不要な存在、もしくはスケープゴートとして選ばれる可能性は圧倒的に上がりました。

 

7話、最初一松は真っ先に「帰ろうぜ」って言うんですよね。自分(自分たち)が疎まれる理由を最も理解しているのは一松なので、まあそうだよねという発言です。

しかしトド松の処刑が決定した瞬間最も過激な行動に出たのは一松でした。

そして処刑が完了したとき一松は笑顔でトド松に言います。

「おかえり」

 

4話5話6話と、トド松はおそ松(リーダー)チョロ松(リーダーに対して問題提起する役)と対等に渡り合って六つ子の行動について話し合う発言権を持っていました。というか、一松は黙ってるし十四松は問題外でカラ松はずっと時々蹴られる空気なので、事実上言語コミュニケーションが取れるのはその三人だけなんですよね。そしてトド松は2話からほぼ一貫して(2話Bパートという側面もありますが)「おそ松の横でおそ松に話を合わせている係」だった。5話ではおそ松と一緒にカラ松の不在をネタにしてコントをし、チョロ松を弄って遊んでいた。

「トド松はおそ松と並んでファミリーカースト上位の座を盤石なものにしている」んだとばかり思っていたんですよ。わたしは一松と、あとはむしろおそ松トド松におもちゃにされやすいチョロ松の行く末のことを考えていた。カラ松が処刑された今次に処刑されるのはどちらかだろうと。

 

しかし7話です。

松野一松はアンタッチャブルな領域の人間であるということを「クソだクソだと散々言われたからにはやることはひとつだ」という極めてシンプルな方法で示し、「家族がいるから友達はいらない」という台詞の意味を「おれは弱い人間で家族しか頼れない」という意味から「だから逃がさねえぞ絶対に」という意味に速やかに書き換えて弱者の看板を床に叩きつけました。

松野トド松はいつもあれだけ上手に立ち回ってもミスもしくは不当な所得がバレた瞬間処刑されるということが明らかになりました。そしてトド松はあんなに要領がいいのに「何故か」家族から逃げ出すことだけはできません。

 

 

ここで行われているのはファミリーカーストゲームです。「ニューおそ松兄さん」という形で追放されそうになったことはあるが少なくとも「おそ松兄さんなんて松野兄弟には必要ない」と言われたことはないおそ松。弄られ放題に弄られながらも結局は彼らのケア役割と発言権を担うチョロ松。完璧なピエロでありムードメーカーである十四松。そしてアンタッチャブルな凶器、松野兄弟の存続のためなら手段を選ばない優秀な鉄砲玉、一松。既に一度追放されているカラ松。そしてトド松の再びの処刑。

 

 

追放されるかスケープゴートにされるか処刑する側に回るか。ワンチャン狙ってトップの座を奪うか。さて次の犠牲者は?

六つ子のファミリーカーストゲームは始まったばかりだ。

 

 

いいから家族を見捨てて逃げた方がいいよ。マジで。