一抜けおめでとう、トッティ!

14話最高でした。トド松一抜けおめでとうー!!!

ちょっと何から喋ったらいいのかよくわからなくなっているのですが、14話において、これまで兄に抑圧されることから逃れられなかったトド松が、明確に兄から「自立」し、「あんたたちと僕は関係ない」を突きつけた、という話だったと思っています。すごい。花とか送りたい。今日エントリ長くてごめん。

 

(あとどうでもいいんですが、これまで原作準拠で六つ子の一人称をひらがなで書いていたんですが、インタビューとか読んでいると漢字になっていることが多くて、six same faceの歌詞カード見るとそれなりに使い分けられてるっぽいんですが全員分はないし、とりあえず今回のエントリから漢字表記に統一します)

 

9話のあとに、六つ子の勢力図について書きましたが、13話から14話にかけて、これが急速に書き換えられつつあります。

9話の時点まで、六つ子の中で最強のポジションにいるのは実は一松であり、兄弟を掌握し支配下に置き、全員が一緒にいられるようにコントロールしていたのは一松であり、それは「兄弟がいるから友達は要らない」彼の生きるための戦略でした。そして兄弟の指針を示すのがチョロ松、決定権を持つリーダーはおそ松。十四松はムードメーカーとして重用され、そして特出した行動を取るトド松はどんなに媚を売っても定期的なリンチの対象、空気を乱し時に落ちこぼれるカラ松は無視されるみそっかすでした。

9話を経て、まず十四松が「あの日走っていってから」あるいは「あの日豹変してから」実は心理的には全く帰ってきていないのではないか、もう十四松は「六つ子というひとつのものの一部分」であるつもりはないのではないか、という気が、14話のあまりの超越っぷりを見ていてしてきたのですが、この話はまた改めて。

 

まず13話から。

13話Cパートは、2話で「ニューおそ松兄さん」という形で、「おまえなんか要らない、別にリーダーやってくれるなら他人でも誰でもいい」ということを突きつけられたおそ松の、「長男の立場の奪還」でした。

 

13話でおそ松は「おまえら全員俺のエロ本で抜いてるよね」という一言で兄弟全員を綺麗に封殺し、マウントを取ることに成功しますが、彼はこれまでこのカードを出してきたことはなかった(ものすごい強力なカードなのに)。「本当はおまえらは俺に逆らえない」というカードを、おそ松は三か月温存していたのか、それとも。いろんな解釈ができると思いますが、わたしはこれは「あの日兄弟からの孤立を感じたおそ松がこつこつ兄弟について観察し、情報を集めて」「好きそうなエロ本を買ってきて、兄弟を釣った」のではないか、と想定しています。

おそ松は2話で兄弟に何ひとつアピールできなかった。それからおそ松はことあるごとに「俺が長男」とアピールし、一松や十四松に「兄の顔」で微笑みかけ後押しをしてやり、そしてずっと、あの日チビ太に打ち明けた本音、「長男だからって何、同い年だよ」「俺だって一人っ子がよかった」を打ち明けることも、「お兄ちゃん寂しい、かまってほしい」と兄弟に正面切って言うこともできなくなりました。

そして(わたしの推測によると)おそ松は兄弟を適切な方法で釣り、「おまえらの性欲がどういう形をしているか知っているし、それを俺に握られていると知りながらおまえらは俺の選んだものに抗えない。皆お兄ちゃんのことが大好きだよね。いいんだよ別にそれで。俺に素直に従ってればいいんだ」と言った。そして「素直に従わないチョロ松は生意気で可愛くない」と、あの日、2話でおそ松に対して「今日からおまえは赤の他人だ」と言い、ニューおそ松兄さん事件のおそらく主犯であろうと思われるチョロ松に対して、完璧な仕返しを行いました。

 

おそ松がけらけらとチョロ松をおちょくって遊んでいた(これは対等な喧嘩ではなく、おそ松は「決定的な地雷を踏まないように細心の注意を払いながら」チョロ松を弄んでいただけだと思います)煽りを食らって唐突に八つ当たりをされたのがトド松。

「おそ松とチョロ松が喧嘩を始めるとトド松が修復に当たろうとする」これは結構びっくりした新発見だったんですが、とにかくトド松は関係修復をしようと口を挟み、その結果チョロ松の逆鱗に触れました。チョロ松はもともとトド松に当たりがきついですが、ここで漏らされた、おそらくチョロ松の「本音」はすごい。

「トド松おまえ本当はいらない存在なのに、なに調子に乗ってんの」「偶数はおさまりが悪い、奇数ならセンターが作れるし、しっくりくる、末っ子のおまえが生まれてこなければよかったのに」

そしてトド松はむくれて「僕いないとこまるくせに」と主張を始めるのですが、このチョロ松の理屈で一番ぎくっとしたのは一松ではないか。この兄弟の中で「どうせ俺は生きる価値なんかない」「愛される価値のない燃えないゴミ」だと思っているのは一松であり一松ただひとりです。

かくして一松は(まあ、普段通りの行動ではあるのですが)、兄弟を代表して「僕いらないと困るくせに」と主張するトド松に対して「別に困らない、おまえあざといだけだし、そのキャラすぐ飽きる」と言い返しました。

いつもならトド松の独断専行は兄弟全員でリンチされてしかるべき行為でした。しかし今チョロ松はそれどころではありませんし、おそ松は別にトド松のことは今はどうでもいい。そしてカラ松と十四松は別にいつもなんとなくノリで合わせているだけで自発的にトド松をリンチしたことはありません。つまり、兄弟を代表して、そして自分自身のためにトド松の攻撃を始めた一松を、援護してくれる兄弟は誰もいませんでした。

そしておそらくトド松はそれら全てを理解したうえで、一松に対する最も強力なカードを持ち出しました。

 

「一松兄さんこそそのキャラやめたら? 本当はごく普通の人間だってエスパーニャンコのとき証明されましたよねー! 『俺も、ごめん』超フツー! ノーマル四男!」(原文ママ)

 

てめえそれ7話分の間みんな黙ってやってたのにいつカード切るかもしかしてずっと狙ってたのかよ!!!!!!

 

一松はこれに全く言い返せず、風呂場でトド松の服を持ってとんずら、その後トド松のエロ本を掘り出してみせ、14話に入ってトド松のくしゃみに難癖をつけるという形で報復をしようとしていますが、かつて7話で、そして(トド松相手ではないですが)10話で一松が見せたような狂気はそこには一切なく、嫌がらせの方法も絡み方もいいとこ中学生レベルです。当然トド松はちょっと腹を立てはするけどその程度に収まっており、7話で見せざるを得なかった完全な屈服は一切見せていません。14話Aパートのくしゃみに関する難癖に至っては完全にスルーしていました(さらに言えば一松はチョロ松に「何言ってんのめんどくさいからそういうのやめて」とまで言われてしまった)。

かつて7話で一松は、トド松に対してなりふり構わないリンチを行うことによって、「本当はごく普通の人間」という看板を叩きつけて「俺をこれまで通り犯罪者予備軍と呼び続けろ」と恫喝したはずでした。それは7話においては機能していました。しかし13話に至って、あの日一松の立場を補強する手段として使われたトド松は、「僕もあんたを殺すカードを持っている」ということを公言しました。

 

14話は細かなところが色々と凄いのですが、挙げていくときりがないので端的に言うと、

「あざといだけ、すぐ飽きる」と言われたトド松は、「あざといキャラ」をあっさり捨てて、「あざとくない僕がどれだけ怖いか見せてあげよう」と行動に出て、

「ノーマル四男」と言われた一松は、「犯罪者予備軍キャラ」をついに捨て、「兄弟が好き」「常識人」「ノリがいい」「空気も読める」「気が利く」を明確に打ち出して来ました。

 

つまり完全にポジション交換です。

もともとトド松は兄弟に対する愛などなくただ処世術と恐怖から兄弟に媚びへつらって、切り捨てて底辺を脱出するチャンスを伺いながら上手に口を合わせていたのであり、「あざとさ」は彼の戦術に過ぎませんでした。彼の「素」はおそらくカラ松とふたりきりのときに見せる、なんでもずけずけとものを言い、めんどくさいと愚痴りながらもそれなりに空気読んで頑張っていこうと考えているほうであり、あるいはトト子ちゃんの部屋で素振りをしながら泣きスタバァのバックヤードで泣いた方、ドライでシニカルでクールで、前向きで努力家で素直、上昇志向があり、そして口が悪い方の彼が「素のトド松」です。そのコミュニケーションスキルの高さを含むスペックの高さを含め、兄弟を震撼させ完膚なきまでに攻撃する力を持っているのは本来トド松の方でした。

対して一松は友達が作れず兄弟に依存し、そして兄弟しか自分にはいないという追い込まれた環境において、兄弟を観察し、そこで何が行われるべきで何が言われるべきではないか、ずっと冷静にコントロールして、「ここを失うくらいならプライドなんか要らない、守るべきもののためなら何でもやる」という勢いで暴力行為や犯罪未遂を行ってききただけで、5話以降完全に露呈していますが、素はゆるくておとなしくて気が弱くて空気が読めて気が利く、ごく普通の常識的な青年です。彼は「守るべきものがある」から攻撃態勢に出ているのであって、しかしその「守るべきもの」は「自分自身」ではありません。逆説的に、彼は自分自身を守るためには戦うことができません。あざとく振る舞って兄弟に守ってもらわなくてはならないのは一松の方。

かくしてトド松は「兄弟だからって仲良くする理由ないし、ていうかちょっと気持ち悪い、なんでなにもかも全部言わなきゃいけないわけ? ていうか、全部言ったら、みんな傷つくんだよ? 言おうか?」という攻撃性を遺憾なく発揮して「もういい、何も打ち明けなくていいから」とチョロ松に言わせるまでに至りました。

そして一松は兄弟の看病から(やり方こそめっちゃおもしろかったですが一松要するに「ちゃんと俺のいうことを聞いて大人しくして早く風邪を治せ」と言っている)、お菓子の最後をさらって片づけるまで、チョロ松のネタ振りに対するノリノリの演技からおそ松の論旨の空気を読んで補強するまで、銭湯の閉まる時間を気にし、六人そろってないことを指摘し、おまえ本当に出来た子だな!? もう完全に「ハイスペック」の域だぞ!? あとカラ松としれっと普通に会話して、猫を使ったカラ松いじめも完全に惰性と化している(というか意図的にやったかどうかも不明だ)しもう別に黙れとも言わない。正直こうなった一松がカラ松に絡むモチベーションは別に特にありません(カラ松の方も変化したことも関係してると思いますが、これもまたいずれ)。いま敵はトド松です。

 

ふたりとも「素の自分」を出して、収まるべきところに収まったかに見えます。

 

トド松はこれでいい。正解。最適解です。よくそこに行きついたと思う。これまで抑圧されていたことがおかしかったのであり、別にトド松はこの兄弟に拘る必要はなにもないし外の世界で存分に可愛がられていくべきなのです。スタバァでの経歴詐称で見事にスッ転んだトド松は、おそらく、「自分の本当の売り」を冷静に分析しました。彼は別に素のキャラで経歴詐称をせずに振る舞ってもモテなくはないでしょう。しかし彼が絶大な人気を誇りアイドルとなることができる場所はもっと他にあります。

囲碁クラブ。

完璧だ!

わたしは中高と部活動は囲碁部だったのですが正直そのことをこんなに喜んだことはない。囲碁の話ならできるよトッティ!

まず中高年主体の空間で、若い人は若いというだけで喜ばれ可愛がられます。あと素人に教えるのがみんなめちゃくちゃ好き、「何も知らないんですが」から行ってもみんなめちゃくちゃ親身に教えてくれます。基本ルールが単純なので即日ゲームを始められますし、そのうえで覚えておくと楽しく打てる定石がいっぱいあって、覚えて打つとまた褒めてもらえる。そもそもがやる気のある人間はめちゃくちゃ褒めてもらえます。陣取りゲームで心理戦なのでトド松は適性があると思う。えげつない打ち方をして勝利をかっさらっても強いねすごいねと褒められるだけ。

そして囲碁は一対一の世界です。トド松がこれまで得られなかった、個人が個人として単純に認められる世界です。そしてトド松は上の人間を立てるときの仕草はめちゃくちゃ良く知っている。トド松は礼儀正しく品よく振舞い、よろしくお願いしますありがとうございました勉強させていただきましたと言い、持ち前の記憶力と頭の回転の速さで几帳面な講評をやって若い人はよく覚えてるねと褒められ、どんな相手と打つ時でも常に相手に敬意を払って気持ちよく打たせてくれることでしょう。完璧だ! ここが君のパラダイスだ! よく気づいたな!

そしてトド松は「頼りになる兄」や「父や母」、もともと持っていない「姉」すら、もしかしたら「弟妹」すら、囲碁クラブで見つけることができるかもしれません。別に全部、外の世界で手に入ります。皆頭が良くてマナーの良い人たちで(少なくとも彼の兄弟よりは)、ドライなのは勝負の世界だから当たり前、むしろそこがいいと言ってもらえる。

その上囲碁クラブは中高年主体の空間なので、友情の結果就職に結びつく可能性も十分ある。

 

トド松はおそらくかつて富士山に登った時も囲碁クラブに行きはじめた時も、「兄弟にバレたら嫌なことが起こるに決まっているから」わざと黙っていたのだろうと思います。登山も囲碁もマナーがものをいう世界、彼の突拍子もない兄弟がそこでTPOに合った振舞いをするとトド松に思えないのはあたりまえです。これまでずっとそうだった。トド松が愛していて居場所を求める場所はマナーがものをいう世界であり、彼は自分がそこで正当に評価される人間であることと、そして兄弟がそうではないことを知っているからこそ、黙っていた。

14話でトド松はそれを隠すのをやめました。

兄弟のいる場所でジムに行く準備をしていたことから全て、わたしは、全部トド松の壮大な釣りではないかと考えています。ばれないように準備して出ていくのは簡単だった、これまでだってそれでいろんなことを隠してこれたんだから。おそ松が兄弟をエロ本で釣ったように、トド松はジムの準備で兄弟を釣った。そしておそ松は「兄弟に寄せる」ことでマウントを取りあぐらをかいたが、トド松は「兄弟を突き放す」ことでマウントを取り、「もう僕に構わないで、放っておいて」と突きつけることができた。

自立です! おめでとう!

かつて蔑称として奪われたトッティという愛称は、14話に至ってもはや完全に愛称として定着しました。トド松はトッティを奪還した。もうほぼ全員彼をトド松とは呼びません。キラキラネームなんか目じゃないほど恥ずかしいと思っていた「松」、脱出しちゃった!

 

トド松には喝采しか送れない。あと10話もあるのにまたひっくりかえされるんじゃないのか早すぎじゃねーかとは思うものの、今は素直に祝福したいです。おめでとう!

 

問題は一松。

トド松が媚を売っていたのは結局のところ「本当は誰も味方はいないことを知っているから」でした。トド松は裏切るタイミングを見計らってこつこつ準備をし、きっちり裏切った。トド松は一切兄弟に依存していません。

しかし一松はズブズブに兄弟に依存しています。外の世界に出ようなんて考えられない、怖い、と彼はかつて言った。一松が媚を売っておそ松やチョロ松に可愛がられれば可愛がられるだけ、その依存度は上がっていきます。そして彼は努力家です。可愛がられるためにできることは全部やろうとするでしょう。

しかしいくら媚を売っても、おそ松とチョロ松が誰を守る気もないのはトド松の経緯を見ていれば自明です。

つまりどんなに媚を売ってもいつか絶対梯子を外される。

気づいてんのかなあいつ。

 

 

トド松は一抜け。カラ松は自分の人生の不憫さを開き直って愛と芸術に生き始め自己アピールを続け、好きだと言ってもらえるチャンスがあれば逃さず駆け寄って「言って!」と頼み込めるまでに。十四松はどうも既に完全に超越した場所にいて、実は投資家だったということが明かされる。

兄弟の上にあぐらをかく以外やりたいことは特になく、誰を守る気も何を守る気もなく、トド松という強力なヨイショを失ってしまったことに気づかず、チョロ松との本格的な対立は兄弟を運営していく上でまずいということに気づかず、一松を可愛がってもどうせ都合が悪くなったらあっさり捨てた結果たぶん一松に見限られるであろう自分自身にすら気づいていないおそ松。

「危機感」だけが常にあり、それ以上はなにもないまま、にゃーちゃんのファンという立場も、トト子ちゃんのマネージャーという立場もファンという立場も、そしておそ松の対等なパートナーとしての立場も、トド松を管理する恐怖政治の立役者という立場も、全て失いつつあるのになんの進歩も見られないチョロ松。

そしてついに犯罪者予備軍の仮面を完全に捨ててしまい、兄弟に依存している心優しく寂しがり屋の甘えん坊であることをキャラとして利用し始めた危うさに、いったい一松は気づいたうえでヤケクソなのか本当に気づいていないのか。

 

 

まず一松から破滅する。このカシオミニを賭けてもいい。