カラ松とトド松の嘘と思いやりのいたちごっこ

またカラ松くんの話なのかとお思いでしょうがまたカラ松くんの話です。やろうと思えば別に全話カラ松くんの話をすることもできるんだけどやったほうがいいのかやらないほうがいいのかわかりません。

 

赤塚王国フラグメンツが完結しました。ここで拍手! はい!

思い返せば去年の8月のことでした、おそ松さんを見返してエントリをあらためてまとめようと思ったのは。今思うと書きあがってから放出して有料にするのが一番スムーズだったんですが、まあそうすると書きあがらなかった可能性が高いので、もう金もらっちゃったからというプレッシャーが書き上げさせたという気はするので、本当に申し訳ないんですが長い時間かかってようやく終わったのでした。終わりました。終わりました! ひとつだけ! もうひとつは来月がんばります!!!

そもそも有料にしなければ申し訳なく思う必要もなかったのですが、有料にしないという選択肢はなかった、なぜならわたしはインターネットの可燃性にまだ疑惑を抱いているから……。まあそれはともかくまだ更新途中の有料コンテンツが完結したあとも有料でやるのかどうかは状況次第です。

そうなんですよ去年の8月だったんですよね。どうしてそこからこんなに詰まったのかというとチョロ松くんがどうしてツッコミをやっているのかという理由を、というかチョロ松くんなのは(原作でおそ松の相棒役を務めていることが多いから)まあともかくなんで三男なのかという理由を掘り返すためにちまちまいろいろな資料を崩していたのが大きな原因だったんですが、資料を完璧におさえるのは諦めないと何も終わらないとあきらめたのが今年の2月でした……なんで半年もかかったの!? まことにすみません……。その他人間関係のトラブルがあったとか、まあ去年の秋から冬にかけてはいろいろありました。過ぎたことです。ただここに残る事実はただひとつ、半年間更新が止まっていたという事実、

および3週間で19エントリ(およそ6万字)書いたという事実です。

おそ松さん二期始まるよっと声がかかっただけで……。

モチベーションって不思議なものですね! 二期ありがとう!(いつ始まるのかすらまだ知らされていません)

 

なおもう一個のほうが遅延している理由はこれを書くために来る日も来る日もGoogleのアーカイブを掘り返し続けていたもののなんか夏くらいから唐突に忙しくなって掘り返せなくなり、そんなことやってたら永遠に終わらないから資料はともかくさっさと書くしかないと思いますので(早くそう思ってください)把握できてる範疇で書こうと思います。

ともあれ夏コミに出ると決意した二月から原稿を始めて終わらない終わらないと泣き喚いてきた日々にようやく光明が……7冊くらい新刊を出そうとしているのが悪いんですけど……。進捗は2冊です。新刊が出ることだけは間違いないです。夏コミ受かるといいなあ!

 

さておそ松さんのDVD(うちにあるのはDVDです)を再生して2話を見始めると一番最初に喋るこの松は何松なのか? というのが放送当初クイズみたいになっていたのが懐かしく思い出されます。トド松なんですが(見慣れた人はなんで迷うのかが既に分からなくなっていると思いますが念のため確認すると帽子をかぶるのはトド松です)六つ子の区別というトリビアリティに拘泥せず自由でおおらかな気持ちで愉快に楽しんでいる人が見わけがつかないのは別にそれでいいんですが(六つ子の区別が最終回までべつにつかなくても面白く観ることが可能なのがおそ松さんというアニメです)特に7話あたりでトド松を覚えた人にはこのしょっぱなのトド松、とカラ松の一連の会話はちょっと不思議です。トド松がカラ松との不毛な会話ののちにもらす述懐がこう。

「働きたくなーい! こうやってのんびり平穏にすごすだけじゃダメなのかなあ、人生」

3話パチンコ警察とか7話スタバァ回(通りが良いのでスタバァ回とばかり呼んでしまいますが「トド松と5人の悪魔」です)でトド松を覚えているとトド松は自立志向が強いキャラという印象が強くなるんですが、この「平穏な人生」発言や、4話の「困ったらみんなで助け合えばいいじゃん」あたりの発言のほうがトド松を特徴づける台詞としては先立っていて、「真っ先に働きたくないと言ったのはなんだったんだ」ということになるんですがこれはべつにキャラがブレているわけではありません。

 

4話Bパート「自立しよう」(扶養面接回)のラストでタイトルの「自立しよう」を言っているのがたぶんトド松なので、ここすごくわかりにくいんですがアホ毛が二本でハイライトが赤っぽいどっちかがショックで倒れていてどっちかが白目をむいて「自立しよう」と言うんだけどこれどっちがおそ松でどっちがトド松なのかわたしはいまだに判別ができず(声で判断できる人がインターネットにはたぶんいるんだけどわたしはおそ松さん関係の集合知をいっさいあてにしていないので……)まあでもどっちにしろトド松とおそ松がショックを受けているという点は間違いがありません。性格と、それになによりこのあとの展開を考慮するとトド松のほうがこれを言うのでは? とわたしは思っているので「自立しよう」を言ったのはトド松ということで話を進めているんですが違ったらすみません。でもおそ松は自立という言葉を間違っても口にしないだろうと思うんだよね……。

まあともかく、たぶん、トド松は4話扶養面接回で、「このままの平穏な人生」は維持できないということを認識しているんですよ。だから7話でバイトを始めたんだし、11話から14話にかけて兄が自分の人生に干渉するのを切り離そうとしたわけです。

 

じゃあトド松は「兄のいない人生」が「平穏な人生」だと割り切ったのか? というとでも別にそういうわけではない。

 

14話でトド松は兄(というかおそ松とチョロ松とその援護射撃としての一松で、全面的に過干渉ぎみのチョロ松はともかく、表情以外で見わけをつけづらいほどよく似ているトド松に対しておそ松が過干渉ぎみなのはわりとおもしろいですが余談です)の過干渉にNOをつきつけることに成功するわけですが、続く15話ではカラ松の女関係に率先して頭をつっこむのはトド松なわけで、このへんのバランスがちょっと面白い。トド松は2話からそもそもそうだけどカラ松に対して兄弟のなかで一番あたりがきつくて、いや一松が一番きついと言えばそうなんだけど一松のは普通の暴力なので……。「カラ松に対して一番対話を試みているのがトド松だけど、あたりがきつい」と言うべきか。

トド松にとって自分の自発的行動が干渉されるのは「関係ないでしょ」だけど、カラ松が(トド松基準で)やばい服を着ていたりやばい女と付き合っていたりする場合、自発的に干渉するのはトド松、という構図があって、たぶんトド松にとって「干渉するのをやめてほしい兄」とカラ松は全然違う領域に存在するのでは、そしておそ松チョロ松一松によるトド松に対する干渉とトド松によるカラ松に対する干渉は(カラ松が相当なことをやっているのでわかりにくいけど)ろくすっぽかわんなくないか、とちょっと思います。

なおトド松の十四松に対する態度は「よくわからない生き物(少し怖い)」という方向性で一貫していると思う。というか、六つ子の大半は十四松のことを「よくわからない生き物(少し怖い)」と思っているのではないか。一松は「よくわからない生き物(でもいいやつだと思う)」カラ松は「一緒に歌ってくれる優しいブラザー」くらいに思ってそうだけど……。

話を戻しますが、そもそもトド松はカラ松との会話の中で、いましていた会話それ自体の不毛さを指して「平穏な人生」と呼んだわけで、カラ松との対話においてあたりがきついのはずっとそうで、彼の中ではそれは「平穏な人生の一部分」であって、少なくともカラ松との関係においてはそれはずっとそうで、トド松にとってカラ松はいわば「守るべき相手」だったんじゃないだろうか。「干渉して正しい道に連れていくべき相手」というか。

 

22話「希望の星トド松」で、トド松がやろうとしていたのは「兄弟からの」自立ではなくて「兄弟を連れてみんなで自立して」新しいステージで誰に後ろ指指されることもなく「平穏な人生」をやることだった、というのが明らかになるんだけども、つまりトド松が7話以降目指していた「合コン」というのは「合コンという天上人との接触イベント」で、それを適切にクリアすることで「天上人の楽園」への道が開けるというものであって、これトド松の脳内BGMが妄想だという認識の上で考えると「兄がそれを望んでいるから、トド松は希望の星にならなくてはならない」ということなんですけど、つまりトド松はずっと「おとなしく待ってろ、僕がおまえらを正しいモラトリアムの場へ連れていく」と言っていたんですけど、兄は別にそんなこと望んでないし完全に間違っているんですけど、まあ22話にもなってそんなこと明らかにされても困るよと思ったら24話のカラ松のグーパンですべての認知のゆがみがスピード解決したのでおそ松さんは話が早いアニメである。

 

トド松はカラ松をずっと「兄弟最弱、自分が導いて正しさを教えるべき相手」だと思ってたんじゃないかと思うけど、カラ松はずっとそれをやらなかっただけでグーパン一回で兄弟を封殺できて、でもそれを黙ってたのは多分、トド松のことをカラ松はカラ松で「かわいがっていた」んじゃないのかなあと思うんですよね。トド松がかわいいので兄弟最弱でい続けてやっていたというか。

カラ松はトド松とふたりきりで会話するシーン、というのは釣り堀×2と合コン面接ですが、いちいちツッコミどころを用意して話しかけていて、つまり多分サービスしていて、あとまあ14話も(タイミング的にカラ松が兄弟の気が引くためになりふりかまわなくなっていた時期ではあるけど)トド松を追求しようとするおそ松チョロ松の意識をトド松からこっちにそらそうとしていたといえなくもない。22話の合コン面接もあれ「女の子と遊ぶというのは大変なことなんだぞ、水を飲めるのは女の子だけ、俺たちにできるのは金を払うことだけだ」というクリスマスに仕入れたてほやほやの教訓を訓じていた……多分……。

カラ松はおそ松にはグーパンを二回(2話と24話)していますが相談する相手もおそ松で多分けっこう信頼していて、十四松とは一緒に歌ったり出かけたりするので仲が良くて、対照的に一松に甘かったのは2話だけで6話以降どんなうざ絡みをされてもほぼ無視していて、チョロ松に至っては基本的に話しかけないし返事しないというわりと極端な人なんですが、つまり相手に合わせてかなり露骨に態度を変える人なんですが、そう思うとトド松のことはかわいがってるんだろうなあと思う。かわいがってるというか、トド松のツッコミが好きなんだろうなあというか……。

それはつまりトド松がカラ松を変えることはできないということでもあり、トド松の「努力」がどれだけずれていたかということでもあるんですが、24話でおそ松がああいうことにならなければ多分カラ松は永遠にトド松の前で兄弟最弱おもしろサイコパスを演じ続けていて、そして多分その嘘あるいは思いやりで彩られたいたちごっここそがトド松の永遠に終わらない「平穏な人生」だったんですよ。