「描きたいこと」と「伝えたいこと」について

以下の文章はウェブショップでやっている「萩ゼミ」という創作講座のテキストとして書かれたもので、そのテキストが冊子形態で売り出せる見通しがさっぱり立たない(進捗的な意味で)ので、まあこのくだりサビの部分でゼミで死ぬほど何回も繰り返すのでブログに投げておこうと思って投げました。

萩ゼミというのは昔わたしがask.fmでやっていたことを一時間~長くて三時間くらい(盛り上がるとずるずる長引く)延々としゃべっては質問を受けしゃべっては質問を受ける場所で、有料です。有料なのはいい加減金を取るべき濃さなのが半分、あとの半分は不要なノイズを弾くためです。

水金土日祝開催、平日22時から休日24時から。内容や時間帯などご相談いただければ融通がききます。黙ってても酒飲んでても大丈夫。どなたさまもお気軽においでください。

……というのをテキスト媒体に起こしてくれと言われ続けてもう半年くらいになるのでいい加減起こそうとして四苦八苦しているんですけど、マンツーマンだと伝わったかどうか確認できるけど文章は大多数に向けて発信するわけで原稿を書くのがとてもつらい。

とてもつらいという気持ちを押して書いているのだということを念頭においてもおかなくてもいいですがとても大変な思いをして書きました!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(主張)

なおnoteに置いているものとはちょっと違う内容ですが言いたいことは同じです。noteのほうがもうちょっとわかりやすいはずだ。と思う。

 

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ゼミをはじめてから二か月ほど、質問持ち寄りで、どういうことでお悩みですか、相談に乗って考えていきましょう、といった感じでやっていました。

実際作品を作る方からの相談を受けてどうこう、というのが多かったのですが、そうやってご相談をお受けしてみたところ、どうも、プロット以前、物語を作る以前のところの作業をもう少しやったほうがいいのではないか、ということがとても多かったのです。

集まった質問の内容は、具体的にはこんな感じでした。

・エピソードが広がらない

・話が一本調子で、おもしろみがない

・考えたできごとやキャラクターの動きがご都合主義で不自然な気がする

どれも、結局のところ、「お話を組み立てるうえで、おもしろくする方法がわからない」というご相談です。ひいては、「キャラクターの外側にあるものがうまく作れない」ということです。この章では、「描きたいキャラクターは用意できた」という前提において、「キャラクターの外側を構築する」方法について考えていきます。

以前から友人からも、「事件性のある話が書けない」「社会のある話が書けない」といった悩みをちらほら聞いていました。

「事件」「社会」つまり、「主人公の外部にあるもの」や「主人公に起こった出来事」をどう設定したらよいか、わからない、という状況です。恋愛を扱った作品、特に二次創作では、このような状況に陥ることがよくあります。主人公、もしくはカップルが存在している、というところまでは想定できる。好きなキャラクター、もしくはカップルを描きたい気持ちはある。描くために、「何か」を起こしたい。でも「何」を起こせばいいのかわからない。

1、まずキャラクターがいる、もしくは舞台がある。

2、そこに「事件」が起こる。

これはプロットの最小限のサイズです。物語には必ず「事件」が起こります。「事件」あるいは「できごと」あるいは「異変」「ノイズ」。

それは日常から脱出すること、もしくはさせられることです。

「事件」という言葉では大きすぎるかもしれません。「殺人事件」や「大災害」、あるいは大恋愛のはじまりなどを想起してしまうかもしれませんが、必ずしも大きいものである必要はありません。

普段始業ぎりぎりまで寝ている人が、五分早く起きることができた。

いつものスーパーで、好きなお菓子が半額だった。

普通は通り過ぎてしまう道端に、手袋が落ちていた。

「この物語での、いつもの風景」を設定すること。そして、そこから、「違う風景」へ移動すること。

これが「舞台」と「事件」の関係です。その移動の距離や齟齬は大きくても小さくても、どちらでも構いません。

重要なのは、この物語は、何のために存在するのか? ということです。事件のサイズはそこから導き出されます。

「物語を書こうとするとき、それを書くことでなにを描きたいのか」

「物語を書こうとするとき、それを書くことでなにを伝えたいのか」

このふたつをまず明確にしましょう。

 

 

2、イメージとテーマ

 

「描きたいこと」を明確なイメージにするということは、自分にとってこの物語の核になる部分、モチベーションになる部分、そこは絶対に外せないという部分を用意して、それを中心に描いていくために役立ちます。キャラクターの魅力に迫る話が書きたいのなら、キャラクターの中の最も魅力的と思える部分、もしくは今回特に取り上げたい部分はどこかしっかりイメージしましょう。

対して「伝えたいこと」は読者へ向かって差し出したいもの、もしくは突きつけたいものです。その読者は自分自身でも構いません。読み終わった人にどういう感想を持ってほしいか、どういう感情で読んでほしいか、どういう情報を持ち帰ってほしいか。これは物語のテーマであり、もしくは問題提起です。

二者は同じようでいて違うものです。

「キャラクターの魅力を描くこと」と「キャラクターが魅力的だと伝えること」は、同じ目的ですが、プロットの作成において違う作用をします。

「キャラクターの魅力を描くこと」は、情報を絞り込んでいく行為です。「どうしてもこれだけは外せない」情報だけを残して、それを最も効果的に使えるプロットを考えます。

「キャラクターが魅力的だと伝えること」は、情報を広げていく行為です。「魅力を感じるとはどういうことか」「誰に魅力を伝えるのか」「どんなふうに伝えれば伝わるのか」伝える相手を、架空の存在でも構いませんので具体的な相手を想定して、その相手により伝わる方法をたくさん考え、広げていきましょう。

「伝える相手」「読者」とは実在の誰かでも構いませんが、その相手に読んでもらえることを期待するよりも、まず自分自身にとって面白いものを書こうとするほうが目標としては現実的です。アマチュア作家にとって、自分自身は最も読者になってくれる可能性が高い存在です。絶対に読んでくれる(読み返してくれる)とは限りませんが、それでも、自分自身にとって面白いものであることで、書きあがりを楽しみにすることができます。

「自分が描きたいものを書くこと」と「自分が読んで楽しいものを書くこと」。それが何であるかを考えること。

これが「物語の始まるところ」にあるもの、プロット以前、事件以前にあるものです。

これは両方必要です。自分が書きたいものと、相手に読ませたいものは、同時に、感情と風景、抽象と具象のバランスを取ることにもなります。テーマは抽象、イメージは具象です。