インターネットに善なる時代などなかった

べつにこれはインターネットの話ではありません。抑圧の話です。

個人のホームページをやっていたころ世界は「すべて」明るかったという認識は誤りです。それは「あなたの界隈が」個人サイトに向いていたのであり、「たまたま」抑圧を受けなかったか、受けても処理する能力があったのです。

 

まず、SNS社会である現在には明確な闇があります。

携帯電話で、メールのやり取りをするようになったころから、いや仕事にメールが導入されて以降言われつづけている「レスポンスが早い人間が信頼される」問題、電話なら不在で済んで、できるだけ早い方がいいもののこちらの都合のよいときに返せばよかったものを、メールという文化が始まったときから、来た瞬間返せるフォーマットが整ってしまったせいでレスポンスそれ自体に信頼がおかれるようになりました。それがパソコン通信やインターネットホームページに結び付いた結果、「メールの返事してないのに更新してる」みたいになり、SNSはその一極として、「リプライ返してくれてないのにツイートしてる」が目に見えるようになってしまった、リプライを返す返さないひとつで悩みはじめればきりがないほど悩むしかなくなってしまった。

それは事実です。これを皮切りに、インスタントに知らない相手と連絡が取れるために生まれる軋轢、インスタントに「ファン」を集めてしまうことによって「第三者が代理戦争に参加してしまう」現象、インスタントに粘着し攻撃するためのアカウントを作って嫌がらせを繰り返すというTwitter特有のタイプの「荒らし」、そして、「まわりのみんなと同じリアクションをしなければ」や「わたしとみんなの意見が違いすぎる」や「みんな楽しそうなのが見えるせいでとてもさびしい」、そして、あらゆることが数字で見えてしまうために見える格差に対する精神的ストレス、といったあらゆる問題と隣り合わせにTwitterを、あるいはpixivを、あるいはSkypeやLINEを、十年くらいログインしてないけどmixiを、アカウントだけ取って放置してあるけどfacebookを、やっているわけです。

これは事実です。オタクに限った話ではありません。やってる人はみんなそう。還暦を超えたうちの母はメールになんて返信したらいいかわからなくて困ったという内容で電話をしてきます。

 

他方、ブログサービスや、自分でhtmlを書いてサーバーにアップロードした個人サイトは、(はてなとかほとんどSNSじゃないのかという気がなんとなくするんですが雑感だから聞き流してくれ)、コミュニケーションをある程度コントロールできます。メールアドレスはインターネットリテラシー上記載したほうがいいと思いますが、それ以外の連絡手段はコントロールできます。

今、少なくとも二次創作同人サイトを作ってわざわざ見に行く人はほとんどいない状態ですが、なんせpixivで見た方が早いし、TwitterならTwitter内で検索してインスタントに仲間っぽい人を探せるし、とにかく全部インスタントですから、いちいちGoogle検索なり使う必要がないわけです。

そしてここがポイントですが、腐女子向け同人サイトはGoogle検索に引っかからない努力をそもそもしてきたという歴史的な経緯があります。

というわけで読者とリアクションをコントロールしたい場合、というかリアクションが要らない場合、個人サイトは最適なフォーマットです。

そしてたくさんの人がpixivに移動しました。

リアクションが欲しいからです。

 

もちろん現在個人サイトやブログではなくTwitterとpixivが腐向け二次創作同人(とりあえずそこに限定するのはそれ以外のオタク界隈のことをよく知らないからです)に移動したのは、「更新が簡単だから」「アップロードが簡単だから」はあると思います。tumblerに上げてる人もいる、楽だから。でも個人サイト時代リアクションがあまりに貰えなくて心が折れた人は多いはずだぞ。

個人サイトに掲示板を置き一言メールフォームを置きウェブ拍手を置き、レンタル日記がブログになってブログにコメント欄が付き、そのすべてを使って何か伝えてもらうより、Twitterで心臓を殴って何らかのリアクションを伝えるのは楽です。いいねである必要すらありません。わたしの界隈では「いつか殺す」という意味でいいねを押している人もいます(favologと連携しておけば言質が取れるし……)。

 

個人サイトが何故二次創作腐向け同人で閑古鳥が鳴くようになったかというと、「リアクションが貰えないから」がひとつ。

付け加えておきますが別に今でも個人サイトやってる人はいます、リアクションが特に要らないなら自分で全部管理できるんだから最適なフォーマットです、ていうか、わたしも二次創作やってた間個人サイトずっとやってました、ログを取るペースが書くペースに追いついていなくてろくに収納できてなかったですが……。

少なくとも腐向けに関しては(いわゆる夢界隈にも似たようなあるいはもっとキツい問題があるようですが、そちらにはあまり明るくないので言及のみに留めます)、もう一つ問題点があります。

望まざる読み手からの嘲笑です。

 

以下はきちんとしたログを取っているわけではなくわたしの記憶によるものにすぎないので、各自リアルタイムをご存知の方は脳内補完して実際はこうだったああだったと情報更新なさってください。

わたしがインターネットを始めたのは2000年です。それより前もいじったことはありましたがなにぶんダイアルアップ接続の時代ですからろくに触ってない。怒られるし。

当時はBL二次創作を扱っているサイトでも平気で公式サイトにリンクを張っていました。

それが「二次創作をやっているサイトはアクセス解析をつけたほうがいい」、アクセス解析自体はおもしろいおもちゃなのでそういうのが好きな人はどんどん導入していた時期でしたが、「つけたほうがいい」なぜなら「2ちゃんねるに晒されてるかもしれないから」。なぜ晒されるのかというと「腐女子というものが存在することが、彼らの文化圏に入ったから」です。腐女子というか男同士の感情のやりとりにときめきを抱く女は森茉莉を代表としてたぶんもっと前から、平安文学とか漁ったら出てきそうなもんだけど、とにかくフツーにずっと大量にいるわけですが「めずらしいのでいいおもちゃになる」という判断をされることになったのが、インターネットが始まって文化衝突が発生した結果です。

アクセス解析というものを理解したのでみんな公式サイトへのリンクをはずすようになります。「二次創作をやってることがバレるから」「わたしの存在がバレるから」。やがて、「公式サイトにリンクを張るのはリテラシーがなってない」まで発展するのにそう長い時間はかかりませんでした。その他にも、公式サイトとのいわゆる「二窓」(ウィンドウをふたつ出すこと、当時タブ機能はありませんでした)、「公式サイトを見たあとブックマークから同人サイトに飛ぶ」のも禁止。

「BL二次創作は検索除けメタタグを入れた方がいい」が「常識」になっていったのが2003年ごろではないかと記憶しております。

当時オンラインブックマークというサービスが結構はやってたんですが(今でもやってるサービスはありますがでもクラウド化以前の文化って感じだな……)、これは公開ブックマークにすると検索にひっかかる、検索除けしてるのにやめてくれというのがひとつ、そして出先にアクセスログを残さないでほしいのでそもそも非公開であってもオンラインブックマークはやめて個人の範囲でアクセスしてくれというのがひとつ。

そう、「学校や職場やインターネットカフェからのアクセスはご遠慮ください」もあった。

 

どうしてここまで問題が肥大化してしまったのかわたしにはあまりよくわかりません。もっとマシな対処があったのでは? という話はいまはいいです。

でも文化衝突が起こってBLという文脈を知らない人間からおもちゃにされるようになった結果、選ばれた結論が「隠れるために相互に抑圧しあうこと」だったのは事実です。それが視界に入らなかった人は、それが視界に入らなかった文化圏に住んでいた人であり、それが視界に入っても適応した人は、適応できた人です。

わたしの知る限りにおいて、ここまで苛烈に彼女たちが「自分たちはいけない存在で、隠れるべきなんだ」と主張したのは、このインターネットにおける苛烈な抑圧の歴史以降のような気がしています。もちろんそれ以前も自罰意識と自重圧力はあったのかもしれませんが、わたしの記憶する限りの話にすぎませんし当時わたしはまだ学生ですしそもそも腐女子当事者ですらありませんでしたので全く内実はわからないんですが、でも

「ここまでじゃなかったことない?」

と、部外者として一連の流れを見ていて思いました。

なおわたしはこの歴史の間ずっと「BLも読むし、腐女子の友達もいるし、話にも基本的に付き合えるけどエロい話はちょっと難しいかなという、オールキャラ健全の人」でした。なぜこの問題をずっと観測していたかというと、わたしからBL二次創作のサイトにリンクを張ったりご挨拶に伺ったりするのはご迷惑なのかな? と思って眺めていたからです。BLを書くようになったのは2008年からで、当時は携帯サイトであればそのへんのルールがゆるい雰囲気だったので、携帯サイトで書いていました。

 

今なら晒されたらアカウントを消すか作品を限定公開にするか非公開にしてTwitterに鍵をかけてあるいは鍵垢を作って引っ込んでしまえばあらかた片付きます。

もちろんSNS時代の二次創作者には別の抑圧があり、pixivのタグを分ける問題であるとか、なにしろあらゆることがカジュアルなせいであらゆるリアクションが送りやすすぎて炎上は日常茶飯事であるとか、いろいろ問題点はありますが、少なくとも今pixivにふつうに投稿している人は検索除けには気を使っていないはずです。なぜならpixivは限定公開にしない限り全部Google検索にひっかかるからです。Twitterやニコニコ動画ではいわゆる検│索│除│けが行われていますがこの手の検索除けは検索除けとしての用をなさないので検●除けがお勧めですというかマシです。まあtipsのことはともかく、少なくとも検索除けは形骸化しつつある。

喜ばしいことです。別に避けたい人は避けりゃいいし隠れたい人は隠れりゃいいんですが、それを人に押し付けて回って常識がどうネットリテラシーがどうというのは抑圧である。あと別に腐女子じゃない人も悪い人ばっかりじゃないし混ぜてくれない? わたし今BLも書くから仲間にカウントしてもらえてるけど、男女恋愛やってる人ともBLやってる人とも仲良くしたくてさびしかったよ?

 

 

あとさー、SNS時代、コミュニケーション取るために相互フォローがどうとか構ってタグがどうとか鬱陶しいはわかるけど、昔は良かったみたいになると、キリ番リクエストとか、バトンとか、昔だってろくにかわんなくなかった……?

さびしいんだ……。昔も今もずっとさびしいんだ……。

まあでもTwitterめんどくさいよね、即時性の高いサービスは全部めんどくさいよ、わたしも事実上いまTwitterやってないよ、いや、やってないっていうと語弊があるけど……。生存確認用の身内垢と、TLとリプライとダイレクトメッセージという機能が存在しない告知と軽い感想用のミニブログがありますけど……。