同人作家に感想を送るということ

まずはじめに、この話に正解はありません。テンプレもありません。

なぜならコミュニケーションに正解はないからです。

 

同人作家に感想を書いて送ることが迷惑なのかそんなことはないのか、という話をします。

何故同人作家に限るか、専業作家は別問題として扱うかは後述します。

先に行っておきますが、「送るな」と言っているわけではないんです。「何気ない一言のつもりだったのにそれが最後の一撃となって心が折れて筆を折る人はいる」「ましてや熱量のこもった言葉を浴びせられたら」「そして同人作家のメンタルを守ってくれるマネージャーはいないんだ」という話です。そして感想を送られたい人は「送られたい人です! むしろ何も褒めるところがなくてもわたしを褒めろ!」みたいなことをばんばん言うべきだと思います! 逆に感想を送られたくない人はそういうオーラを出す練習をしよう……。

そして感想を送られたくない人に高尚乙とか何被害者ぶってんのとか言うのやめてやさしく見守ろう……いろいろあるんだよ……。

 

まず第一に、同人作家というのはひとつのカテゴリの生き物ではありません。それは単に「作品を発表している人」にすぎません。

インターネットに何故文章を置くかというと大抵読まれたいからですが、それは大抵そうでしょうが(もちろんそうではない人も少数であってもいます、覚えやすい場所にアーカイブしておくと忘れないからとか)「読まれたい」ということの先に「そしてリアクションが貰いたい」があるとは限らない、というのが第一原則です。

たとえばpixivにはデフォルトでリアクションを返す機能が満載ですが、それをオフにする機能がない以上、pixivに投稿するということは感想を貰うリスク(あえてリスクと表現しますが)が切り離せません。が、「pixivに投稿しているのはそこに置かないと読まれないから」であって「別にリアクションが貰いたいわけではない、その機能はオフにしたいのだが、できないのだ」という人もいます。現在二次創作を作る女オタク(男性向けはもうちょっと違う場所もあるようだ)は大抵pixivに投稿します。感想が欲しくなければ「見ないふり」をするしかありません。

本を作るに至るともっと話がややこしくなります。食事を出すのは好きだがおいしいとかおいしくないとか言われたくない飲食店の店主がいるように、お店屋さんごっこはしたいがリアクションが欲しいわけではない同人作家は往々にして存在します。イベント会場ではそういう人はそういうオーラを出しているのでそもそも滅多に感想を言われることはありませんが(それでも言われる人は残念ながらオーラの出し方が下手な人なのであきらめるか頑張るしか……)、通販に流通した結果、まあいろいろなことがありますね。という理由で通販に流通させない人を何人か知っていますしわたしも一時期そうでした(だからうちに妙に古い在庫が余っていたわけです、それより前のは捨てました……)。流通に乗せると感想が来るんですよ……。ということは感想が来てほしくない本は流通に乗せたくないのです……。

 

別に「人に読まれる」ということはイコール「たくさんの人に読まれる」ではないし、もっと言えば「たくさんの人からたくさんのリアクションを貰う」ことではありません。

そうだと思っている人のほうが大多数でしょう。でもだからといってそれが「すべて」ではありません。

「ひとりで隠しておいたり友達と回覧したりするだけにしないで誰にでも見える場所に出す」のは、「知らない人なんだけど、これを読んでもらえたらうれしいなと思える人」が「インターネットのどこかにいる可能性がある」からであって(もちろん違う理由も人の数だけあるでしょうが)、「誰にでも見てもらいたい」し「誰のどんな感想でももらいたい」わけではない。こともある。

こともあるのです。

 

第二に、プレゼントと同じで、貰ってうれしい感想と、うれしくない感想が、人の数だけ存在します。

プレゼントに正解はありません。定年退職する先輩に金券を渡すのが正解か不正解か。出産祝いにはベビー用品を渡すのが本当に正しいのか間違っているのか。誕生日ではないタイミングで意中の相手にプレゼントを贈るのはアリかナシかあるいは誕生日でもナシなのか。お得意様からもらった手作りのティッシュケース、もらったからには使っているところを見せるまでがサービスだろうか。

親しい友達同士なら(あるいは親しい恋人同士なら、親しい家族なら)多分さほど問題はないでしょう。親しくなかったらプレゼントのちょっとしたタイミングで全てが瓦解する可能性すらあります。

感想はプレゼントの一種で、プレゼントとは、好意や感謝という感情を伝えるためのシステムです。繰り返して言います。「送り手の感情を」伝えるためのシステムです。

受け取り手のためのシステムの側面はその次に用意されています。「送り手のための」システムです。それが入りくんだかたちで冠婚葬祭でいくら包むかとか謝礼として何を贈るかお歳暮はお中元はお餞別はという「義理」の展開を見せるのでわけのわからないことになりますが、そのへんは「プレゼントを贈り合うことによって担保される社会性」の問題で、それも「あなたへの義理をきちんと果たす準備があります、我々は友好な関係ですよね/でしたよね」ということを確認するためにやるわけです。「送り手側の」感情を示すための行為です。

もちろんそれを「受け取ることがうれしい」人が大多数です。それは事実です。そうでなければこんなにプレゼントのやりとりが発達するわけがありません。わたしもプレゼントをもらうのは基本的には好きですしとてもわくわくします。お得意様に貰ったティッシュケースは申し訳ないけどたぶん捨てたと思うけど……。

そして冠婚葬祭に手作りのプレゼントを贈る人はいません、金を包むものです(金を包んだうえで手作りのプレゼントがありがたいシチュエーションもあると思う、父が死んだとき近所のおばさんがおにぎりを持ってきてくれてありがたかった)。誕生日プレゼントに金券を贈るのは関係性によっては喧嘩売ってんのかという話になりかねません(金券の方がありがたい関係性もあります)。「TPOと関係性と相手の属性に合ったプレゼント」が存在するのであって、「感想は送らないのが正解」でも「送るのが正解」でもないのです。義理の絡まないプレゼントにルールはないのです。残念ながら。

ましてや感想は物でもお金でもありません。「熱量を持った解釈違い」という「攻撃」になる危険性すらあります。物は最悪捨てればいいし、お金は最悪寄付するなりあぶく銭としててきとうに使い捨てることもできますが、貰った言葉はけっこう重たいものです。返事をしたほうがいいだろうなと思うと猶更、「返事をするためにちゃんと読んでダメージを受ける」人もいるわけです。

それがすべてではありません。でもいるわけです。

 

第三に、「感想を送ることでどうなりたいのか」が送る側にはっきりしていないのに送るのはリスキーです。

「あまりにも溢れ出るパッションが止まらないのでどうにかして何かを伝えたい」のか、「伝えたうえであわよくばワンチャン仲良くなって語らいたい」のか、「語らうまでいかないにしても好意くらいは持たれたい」のか、「傷つけるかもしれないくらいなら黙っておくべきだと思うくらい逆にもう好きすぎるけどパッションが(略)」なのかということ、自分が「何を理由に感想を送るのか」つまり「どうしてその感想を胸に秘めておくことができず、相手にはっきり伝えないではいられないのか、伝えるべきだと思うのか」ということを理解したうえで送るべきだと思う。

そして望み通りのリアクションが返ってこなくてもそれはそれでしょうがないじゃないですか。

専業作家は読者のパッションを受け止めるか、明言するにしろ暗に示すにしろ読者のパッションを受け止めませんという態度を取るか、マネジメントをしてもらえる人に間に立ってもらうかするまでが専業である責務に含まれてると思います、個人的には。だからわたしも時々しょーーーーーーーーもないお手紙を作家さんに送るわけですが、なんで送るかって作家さんへのお手紙じゃなくて出版社への圧が本星なんですが、でも同人作家はそこまでの覚悟を決めて作品を問うているわけではないじゃないですか、おおむね、たぶん。そして手紙が来たから部数が伸びるわけでもないし。部数を伸ばすのは同人作家の財布だし。モチベーションアップにはつながるかもしれないけど(つながらない人もいるという話をいましてるわけだけど)。

 

以上です。

 

繰り返して言いますが「送るのはアウト」じゃないんですよ。「好きなんでしょ? 好きだって言いたいんでしょ? リスクくらい負えば?」って話です。意中の相手に好きだって言うのが必ずしもポジティブな反応ではない可能性は大多数の人が考慮するのに好きな作家に好意的なリアクションを送ったら絶対喜ばれると思いこんでいる人が大多数なのはなぜなんだ!

 

わたしは「文章が読みやすいけど書いてある内容は難解すぎてよくわからないけど熱意はすごく伝わりました」と「雰囲気のあるかわいいお話ですね」と「心のきれいな方が書かれた文章なんだなと思いました」は、申し訳ないけど言われ飽きました。哉村哉子の解釈違いです。最初のに関してはわたしの技術不足を反省するところですが、後半二種に関しては喧嘩売ってんのかと(売ってないのは知っています)思います。悪意はないのは知ってるんだけど……。こういうこと言うと超性格が悪いの知ってるけど、容姿の美しい方が時々「おきれいですね」「存じ上げております」ってやりとりするよね……。

時間を取って感想を書いて頂くのはどんな内容であっても嬉しいですが、その内容がすべて嬉しいわけではないです。でも時間を取って感想を書いてくださってありがとうございます。コミュニケーションは難しいよね。正解はないんだよ。