ハスミケイさんから、「おはなしのタイトル」経由のご依頼で、Kのイメージ短歌連作25首をつくりました。楽しかったです。転載の了承を頂いたのでここにも載せておきます。
「誰もいない世界があればいいのかな」こどものようなささやかな声
誰、という問いに百回零音を床にこぼしてはじまりとする
空襲のあったあとだねなんていう間投詞には風は要らない
オゾン層のない世界に行こうって真空パックに語り掛けてる
海ですと幼子に言うように言う 小さな小さな子供になって
手のひらを生まれて初めて触れ合った子供のようなうつむいた頬
まずいウソだったのですよ真実を告げるっていうこと自体がね
どこまでも行けるといいねと言いたくて言わないことが永遠になる
はるしおんくらいはわかる道のりではるしおんのかずをかぞえた
道のりに唐突にある青薔薇があなたのことだといま気づかずに
のど元にパッションフラワーのそり生え恥じらいがちな聖人の閨
ざらざらの嘘のなかった山中の問答のない背中を見てる
花の名をみっつ数えてそれ以外解けぬ謎のように塞がれ
ルール無用 まっすぐ見えるものだけの名前を呼んで 今 すぐに
きまりごとのない世界を胎内に呪いのように刻んだ香り
砂のあるところをゆけば道すがら足跡のない世界が残る
ズルのない友情も職も敬愛も 愛も 愛も 愛ならすべて
はじまりがくるみたいです身を伏せて声だけずっと聴いてください
温かいものをはじめて食べているような顔をしたあなたの現世
三日月のとがったところを折り取ってふたりで食べたような思い出
ようやくのことになったと靴音を立てて歩いてまた頷いて
ありとあらゆる床に零れゆく砂のかけらを追いかけてゆく
もう一回言ってみせてよ飴玉の作り方をいつ習ったの?
どこまでも続く旅だよ海よりも青い世界へまた収まって
手のひらをまた繰り返し触れ合わせ明日のぶんのチャージを終えた