読書記録

読んだの何か月前だみたいなのも混ざってるけど読んでよかったやつを。

 

バーナード・ショー『ピグマリオン

kindleで安くなってた時に買ってあったのでいい加減読もうと思って……。言語学者が花売り娘を教育して上流階級の人間らしい喋り方とそれに釣りあう教養を身につけさせ社交界デビューさせた結果の功罪の話、つまり人間を「こうなれば幸福だろう」というかたちに外部から撓めることの罪深さについての話。ひとりの人間を人間として扱わず中身のない人形のように着せ替えて情報をインストールした結果、以前感じたことのなかった不幸を実感してしまう、教養があるがゆえに働くことももうろくにできなくなってしまう、という、極めて現代的なテーマを扱っていて古典はすごいな(頭の悪い感想)というかこういうの全然時間が経っても変わってないな……と思った。

ラブロマンスじゃない! ラブロマンスではないです!! って作者が延々と喚いているの面白かった。しかしこれを原作とした『マイ・フェア・レディ』のほうはシンデレラストーリーの代表作みたいに言われていてもはやラブロマンスの古典なわけで、この世は地獄ですね。このラブロマンスではない、憎悪ぎりぎりのところにある友情という男女の関係も現代的だと思う。ヒロインが言語学者になって師匠の言語学者を追い詰めて殴り殺す現代版ピグマリオンが読みたい(しかし現代で翻案しても結局ラブロマンスにされそう)。

 

 

とびとびにところどころ読んでいた女の友情と筋肉を全部通して読んだ。

「マッチョだけど女の子らしい」が全く出落ちではなく「スーパーヒーローの等身大の苦悩」として処理されていて、差別的でも類型的でもなく「強くてかっこよくて可愛くて恋人もいて仕事もできて」というヒロイックな主人公たちが、「強いことも、かっこいいことも、可愛いことも、ときには足枷になる」し、「嫉妬もすれば自分の無力さに打ちのめされることもある」し、「仕事ができるってどういうことか見失うこともある」し、「恋人がいたらそれでハッピーエンドなんかじゃない」もあって、バランス感覚がとてもきちんとした話だと思った。

彼女たちは強いので飛べる(強いので飛べるのです)のですが、雪の日に電車が遅延していて「でもあいつは飛べるんだから来るだろう」って言われてるところに電話をかけて「今日有給使います」と言って同棲している恋人と過ごしているくだりとか、「彼女がヒーローだからということに甘えさせない」という姿勢がとてもきちんとしていて、とてもよかった。

この雪の日のエピソードのカップルであるイオリは地方出身で、病的というか呼吸をするように浮気をする恋人のユウヤをしばきまわしたりしばかなかったり諦めていたり心離れしかけたりするバランスが非常に絶妙で、「地方出身っぽい……」って感じで、過去回で「流されがちで強気に出られなかった」という過去が出たりして「ぽい……」という、すごいこう、細かいところが類型的ではなく描きこまれていて、あとユウヤのクズ感と憎めないしなんならちょっと頼ってしまうけどクズであるという事実は依然としてクズなんだけどしかしいいやつだなユウヤみたいになってしまうバランスがすごい。その上で今ユウヤ雑な人間関係のしっぺ返しをちゃんと受けてるし……。

あとユイに片思いしている主任がドMのストーカーという「変態」として描かれているんだけれど「ユイにかかわりのある人間は全て愛する」という広すぎる愛情(だからユイの彼氏のことも好き)と、「寿退社が逃げることのように思えるなら心配はいりません! あんな会社やめてよかったと思ってください!」とか言いながらすごい勢いで全裸で駆けだして逮捕される(変態がいる会社ですからね辞めて正解! という意味)くだり、「愛の境地……」って感じで、とてもよかった。ユイも面会に行くし……。

ユウヤの後輩のワタナベがド田舎出身でわりと常識人枠っぽいのに、家が超おしゃれなんだけどソファに座るの禁止だったり友達いないのかとか言われてたり、ユウヤの妹に対する距離感が若干おかしいのに本人は気づいてないっぽいあたりもいい。「おしゃれな家に憧れてたんだな……」「上京してくる子に親切なのは自分を投影してるんだな……」みたいな、こう……明言されてるわけじゃないけど、そういうことなんだろうな、というところ……。

 

サン=テグジュベリ『人間の大地

星の王子さまのサン=テグジュベリのパイロットとしての実体験の随筆。たしか去年くらいに夜間飛行を読んで超感動して読もう読もうと思っていた。おそ松さんが「花との恋」「目に見えないおでん」をやったしね……。航空会社の黎明期、まだパイロットという職業が確立し切っていなかった頃に危険を侵しながら人間のちっぽけさや飛び続ける職業的執念や自然の絶望的な拒絶感と向き合って対話して、実際死にかけながらその中から美しいものや真実と思えるものを切実な清潔さで描いていて、さびしいことはマイナスでもプラスでもなくただ事実なのだという感じがした。

パイロットとしての職業についてのくだりもとてもいいんだけど、砂漠の奴隷のエピソードがとくに好きというか胸が詰まった。

砂漠の奴隷たちは唐突に拉致されて過去と名前を奪われて賞味期限が切れるまで飼われていらなくなったら全裸で捨てられて三日後には死ぬ存在で、もう彼らは全て忘れてしまってその人生があたりまえだと思って甘受して奴隷として生きて死ぬのだけれど、ひとり過去と名前を決して捨てなかった奴隷がいて、筆者は彼を買い上げて家族が住むはずの生まれた国に帰してやり、他のパイロット仲間が彼に足しにするようにと金をやって、彼は無事国に帰ることができる。なんだけども、国についた彼は、自分が自由である、そして人間の尊厳を取り戻したということが理解できない。そこに子供が、撫でてやると喜んだので、彼は子供をたくさん呼び寄せて、子供たちに金の上靴を買ってやった。

 ぼくは、この場合、バーク(※全ての奴隷に与えられる共通の名前)のしたことは、ありあまってあふれるよろこびを分かち与えたのとは違うように思う。

(中略)

彼は自由だった、だがあまりにも無制限に自由なので、自分の重量を地上にまるで感じないものだった。彼には、気ままな歩行を妨げる人間相互関係の制圧が欠けていた。彼には、人が、何にもあれある行動をしようとすると、必ずそれに付随しておこる、あの涙が、別れの悲しさが、譴責が、よろこびが欠けていた。彼にはつまり、彼を他の人間たちに結びつけ、彼を重厚にするあの無数の関連が欠けていた。

(中略)

早くもいま、彼は、自分の真の重量を大地にどっかり置いていた。地上の生活を送るには、あまりにも身軽すぎる天使が、ごまかしにベルトに鉛を縫いこみでもしたかのように、バークは、金の上靴をあれほど欲しがった大勢の子供たちの力で大地につながれながら、重い足取りを運ぶのだった。

人間の尊厳は金で買える。そして人間の尊厳は責任によって担保される。

 

あとは『食の歴史』をごはん食べながらちんたら読んでいます。分厚いから感動したところメモしておかないと忘れるな……すでに大分思い出せないな……でも歴史の本読むよりよっぽど世界史感覚がつかめる気がする、歴史って事実関係を覚えることはできても歴史感覚を掴むのが難しいよねというところの雰囲気が掴めていい本です。高い本だしな……(頂き物です、ありがとうございます)。あとお風呂で大野晋『日本語について』を読んでいます(再読、大学生の時に先生にもらいました)。あと赤塚関係と雑誌を崩すのが遅々として進まない。その前は村上春樹『遠い太鼓』を読んでいた(再読)。あとカラマーゾフの兄弟を読み進めなくてはならないんだけどまとまった時間を見つけてとか言っているうちに読みさしてあるな……。

あ、あと、おそ松さんの連載のためにYOUを買ってるんですが、買ったら自動的についてきたあいざわ遥『お砂糖缶づめ』が結構面白い。YOU本体はまだ目が通せてません(どうせ買ったんだから読もうと思うんだけど)。じつは女性向け漫画誌を買うのは生まれてはじめてです。

そんなかんじです。今期はアニメチェックができてないなー。観れてないんですがとんかつDJアゲ太郎をよろしくお願いします。