おそ松さん公式がすごいパートⅡというか人件費をケチってはいけない話

エイプリルフールなので各企業各個人精力を上げて一日限りのお祭りをするのがインターネットしぐさとして定番化していますが、いつも気になるのはそこに割かれたリソースは回収に見合うものなのかということと、一日限りのお祭りのために仕事をした人はこのお祭りが楽しかったのだろうかということです……。個人がやる分には個人の勝手だが、企業である以上企画立案者と実行者が違う可能性があるだろ! ちゃんとお給料出てんのかな! ということが気になってエイプリルフールあまり楽しめなくなって数年が経ちます。細かいことを気にするとお思いでしょうが現代コンテンツ産業とは無数の人間からリソースを搾取することで成り立っているのが事実だ……。

 

でそのエイプリルフールなんですがおそ松さん公式の動きはサイトとTwitterが「おそ松くん」バージョンに差し変わった(赤塚公式の流用)へそくりウォーズ(スマホアプリ)トップが19話ネタに差し替えになって下らなすぎて良かったのと事前登録プレゼントの配布でした。24話おそ松と松パーカーを着たトト子ちゃんなんですけど、つまりこれは……「トト子ちゃんが松パーカーを着るとかいう事実上の入籍という四月の嘘」……? (嘘でもありがとういい夢だよエイプリルフール終わってからも使えてるし……)

と、日付はエイプリルフールだがこれは本当の、東急電鉄とのコラボが発表されました。この内容がな、すごいぞ。

内容はこのサイトがぺらっと一ページと既存絵に少し描き足したムービーとほとんど更新されないTwitterアカウントだけなんですが、情報量が濃い。おそ松さんはアニメ本編もコラボ描き下ろし絵もだいたい情報量が濃いですがこれは本当に濃い。

まず、「六つ子の接点なしコンビ」と名高かった(何を言っているのかとお思いでしょうし実際接点ないわけではないんですがきちんとお互いを認識して会話らしい会話をしたのは23話が初、対話が成り立ったのは24話が初)のチョロ松とカラ松がムービーで議事進行をやっている上だれひとりまぜっかえさずにきちんと進行できています。おそ松に仕切るのを任せないのは24話の空気の上今回はおそ松もそれにフツーに納得してるみたいだし、最終回後の関係性だ!

モテたいとは言うものの具体的なモテを意識したことがなかった私服の一枚すら持っていないおそ松がトト子ちゃんとのおしゃれな街でのデートを視野にいれて弟と喧嘩をしています。24話ではそんな気分じゃないからってあっさり背を向けたのに改めて向き直ろうとしている! 4話では「トト子ちゃんの方から好きって言われたい」5話では「トト子ちゃんの本当の気持ちなんか知らない方がいい」21話では「トト子ちゃんが自分の善なる部分に奪われると思うと人体自然発火するほど悔しいけど善なる部分を殺す以外なにもできない」24話では「弟がいなくなったあとなのにどうでもいいやってトト子ちゃんと逃避なんかできない」そして最終回では「俺と五人の弟の永遠のアイドルトト子ちゃんと俺たちの男根のメタファ」で終わった、結局トト子ちゃんとの関係を何ひとつ進められなかった松野おそ松くん、ここにきてようやく「トト子ちゃんと自由が丘でおしゃれなデートをする権利は俺のものだ絶対渡さない」と言い張って力づくで奪い取りました! おめでとう! 25話を観る限りトト子ちゃんまだ石油王をキープしてるっぽいけど魚臭いところにむしろ惚れてるおそ松くんは十分石油王と対等に戦えるぞ頑張れ!(観てない人は何を言っているのかとお思いでしょうが24話を観てくれ)

そして、かたやトド松はどうも池上線を押し付けられたっぽいですが登山や滝や囲碁将棋が好きなトド松が本当は自由が丘よりスワンボートの方が好きなことは我々も兄も知っているぞお兄ちゃんは優しいねえ! チョロ松は変に背伸びをせずたまプラーザあたりに家を構えて子育てしながら都心に通うビジネスマンの等身大の人生に思いを馳せて居心地悪そうにしているし(頭下げて会社に戻るなり就活頑張るなりしような……)、カラ松は「寄生虫(つまりイコールニートでしょうね……)の愛の囁き」を聴いてごらんって言ってるし、十四松という知性担当教育キャラ(何を言っているのかとお思いでしょうが17話を観てくれ、いや観ても何を言っているのかとお思いかもしれないが)が「松陰神社」に言及するのはこれからも知性担当で行くのだな……って感じだし、一松くんもカラ松をこじらせてることを何憚ることなく言及するようになったし……。

つまりこれ、「最終回後のエピローグ」です。たったこれだけのテキストとこれだけのムービーで、「みんな元気にしているし、これまでのことを受け入れて、これからのことを考えてるし、みんな仲良くやってるよ」というエピローグが、まさか、コマーシャルの形で提示されました……。

 

それに加えて四月二日~三日まで、ラフォーレミュージアム六本木にて春の松の市が開催されており、六つ子とイヤミ(の着ぐるみ)がファンサービスをしています。

ファンサとしか言いようのないことをしています。

Twitterにばんばん動画が流れていますが、着ぐるみが抱き合ったり手を繋いだり手でハートを作ったりするたびにほとんど悲鳴のような女子の黄色い歓声が上がっています。アイドルだ。単なる着ぐるみです。べつにそこまで似てないしかわいいけど超かわいいというほどでもないと思う。でもめちゃくちゃ「本人だ」「実在してる」としか言いようのない動きをしている。本当に。何を言っているのかわからないと思(略)

おそ松さんというアニメは1話で「アイドルになって成功しよう!」というネタを突っ込んで「いや、これ、無理だわ、等身大の俺らで行こう、しかし等身大の俺らとは何なのか」という迷宮に迷い込んだ結果ニートになるという導入があったのですが(そして1話は黒歴史に葬られどこにも収録も公開もされていないのでそういうことがあったということ自体思い出とリアルタイム録画民に焼いてもらう以外の場所にないのですが)、最終的に六つ子はアイドルになった。

そして松野カラ松くんは最終回で「俺の夢は武道館でワンマンライブだ」という言及をしているのですが(前後の流れからしてあれ多分一松を釣るためのジョークですが)、この松の市という六つ子アイドル時空において、カラ松は完全に全てを理解したファンサに次ぐファンサと兄弟との絡みをやりまくっており、緊張して硬直してるっぽいチョロ松(アニメ本編でろくに絡んでないチョロ松)と絡みまくり、ノーリアクション芸人で行こうとしている一松(アニメ本編でずっと微妙な関係だった一松)と絡みまくり、ほかの兄弟とも絡んだのかもしれないがおそ松は見たけど全部チェックできてないですがとにかくこれ事実上の武道館ライブじゃねえか。

しかも最終回のあとだと「お仕事とかメタとか関係なく、これくらいのことは今ならやりかねんな」と別に思える。

 

コマーシャルと着ぐるみで、エピローグとカーテンコールをやった作品、おそ松さん……。

 

重要なのは「別にたいしたリソースは割かれてないけど女子は黄色い歓声を上げる、そうなるようにアニメ本編を観ているだけで調教された」「別にたいした情報量じゃないけどでもここに濃い情報が入っていることを理解することは可能」ということであり、つまり、

誰だって働きたくないだろ! 最小限のリソースで最大限の利益を上げるんだよ!

ということを徹底しているということです。作品内容と公式の動きがきれいに噛み合っている上で、誰も損をしていないどころか得しかしていない!

あと、スポンサーがついてなかったり金が動くことが前提じゃない仕事はしていない。たしかに着ぐるみは無料で観られるが(入場制限はかかったみたいですが)通販に出回ってない(と思う)グッズがばかすか買える空間でありたぶんみんななんか買って帰るでしょう。あと入場制限関係で揉めたという情報を聞いていないし公式アナウンスもスムーズでしたと言っているのでさすが松公式は何をやらせてもそつがない……。

 

才能やキャリアのある(監督脚本みたいな話だけではなく、オンライン更新担当やイベント担当や描き下ろし絵・コラボ関係にしっかりした情報を渡して話し合う担当者がきちんと雇われているしおそらくチームとして用意されているのだと思います)十分なスタッフを用意してきちんと話し合って隅々までほうれんそうを徹底している公式だからできることであり、ようするに前提として金と余裕があるんじゃねえかという話ではあるんですが、でも「大事なのは、人件費と、ほうれんそうと、顧客満足度を上げること」という、いやこれ当たり前のことですよ!? でもできてる企業どれだけある!? これを徹底しているとしっかりと伝わってくる公式がこれだけ莫大な利益を上げているという事実、日本の未来と展望である。

おそ松さん公式ありがとう……。儲かった金できっと関係者みんなちゃんとした飯が食えているんだろうなと思える公式……。いやどうだか知らないけどここまでそつがないと少なくとも「そういう夢」は見られるじゃん……。人件費をケチって買いたたいてはいけない! 余裕がなくなる! 余裕のない空間は小さなことからぼろが出ていくんだ!

 

しかしニートを扱った作品が「人件費をケチってはいけない」という結論を見せてくれるのすごくこう、美しいですね、すべてが。

 

ところでおそ松くんの愛蔵版や赤塚全集の類はそのうち出ると期待してもいいんでしょうか……「出るまで松に金を払うのをやめない」みたいなテンションなんですが……(しかしそんな生活を続けていたらいざ出たとき買えないのではないか)。