はじめに
こんにちは、哉村です。
なんだかんだで無料の頃も含めてだいぶ長いこと……十年くらい……やっていた小説の添削を、自分にできる仕事の量を超えたので今年1月にすっぱり全部やめたのですが、その頃チェックのために使っていたテンプレートと基本的な指導方針をメモしてあったものに、少々手を加えて公開します。
何をやっていたのかもうすっかり思い出せないところもあるので、ざっくりしたものですが、自分で自分の作品をチェックしてみよう! と思った際にお役立てください。小説以外でも問題ないんじゃないかと思います。
このエントリは「小説を書き始めてみたけど/しばらく経ったけど、自分の作品のだめなところばかりが目に付く」とか、「思ったような小説が書けなくて悩んでいる」という段階の方向けのものなので、「書きたいものはわかっているけどもっと上を目指したい!」という方には物足りない内容だろうと思います。その点ご留意ください。
概要
何をチェックしたら良いのか
作品の添削というか、よりよい作品にするためのチェックとしては、様々な観点や方法があると思うのですが、わたしが行っていたのは1時間の添削という短いもので、継続的に指導できるわけではなかったこともあり、やることは絞っていました。
というわけで、自分で自分の作品をチェックする際も導入は簡単だと思います。ただできれば相談する相手がいたほうがいいにはいいかもしれません。
指導は基本的に「自分の強みは何か?」を掘り起こして大切にする、という方向で行っていました。
だから正確には、添削というより応援というか、褒めている時間の方が長かったと思います。
強みとは何か
わたしがお預かりしていたのは同人小説ないし投稿用小説で、「他に相談する相手がいない」場合がほとんどでした。大抵自分の作品に対して自信がなくなり、指針を求めていらっしゃいました。
お金を払ってまで小説を読んで欲しい、という段階にいる方の作品に読み応えが一切ないことはありません。皆さん、ある程度の自信作を持っていらっしゃいますので、必ず「強み」があります。逆に言うと、「自分は書けているのか、おもしろいのか不安である」と感じる段階にいるということは、大抵「何かしらは書けていて、少なからず強みがあるが、それが何なのか分からない」ということのように思われます。少なくとも、わたしが作品をお預かりした方は大抵そうでした。
「強み」とは、得意分野であり、思い入れのある部分であり、自然にできていることです。
それは捉え方によっては「欠点」と思えることもあります。繊細な心理描写を得意とする方が、自分には勢いがない、推進力のあるストーリーを作れないことで悩んでいる、というような例は非常によくあることです。
また、軽妙な台詞を上手に書かれる方が、これはみんなできることだから強みではない、と思っている、ということもあります。実際には、台詞が書けなくて作品に軽さが出せず悩んでいる方はかなり多いです。
「自分の強みを確認する」とは「自分は何者なのか確認する」ということでもあります。「自分は何者になりたいのか」より先に、「自分はそもそも何者なのか」を確認しましょう。
自分を大切にする
投稿用小説だとまた話が変わってくると思うのですが、同人小説を同人小説の範囲で、趣味の範囲でと言い換えてもいいですが、楽しく作品作りをしたいという目的で作って行く場合、一番大切なのは、「自分にとって心地よいのはどういう状態なのか?」ということです。
「自分を大切にする」と言い換えることもできます。「なにができていないのか」より、「なぜ、それができていないと嫌だと感じるのか」ないし「何ができていれば、自分にとって快適なのか」を軸に作品を作りましょう。
自分に適した書き方で、気持ちよく定期的に作品を書ければ快適なのか?
それとも、自分の性質上難しいチャレンジだとしても、山を乗り越えるのが気持ちよいと感じるのか?
大体この二択になると思います。
他人を基準にしない
大事なのは「自分を大切にした結果、自分が快適である」という点に創作の軸を置くことです。
「自分にとって快適な状態とは、常に高い評価を得るために研鑽することである」ということなら別にそれでいいのですが、「自分は辛い思いをしてもいいから、高い評価を得ること」を第一の目標に置いて創作を行うと、疲れるだけなうえ、得られた評価が努力に対して順当かどうかの判断ができなくなることもありますので、気をつけましょう。
ということで、以下が、小説をチェックするためのテンプレートです。
1.一番書きたかった部分は?
2.何のために作品を作ったのか?
3.自分としてはこの作品のどこが気になっているか? どこを直したいか?
4.この作品の強みは何か?
5.直したいところは強みになり得るか?
指導時は、1~3をご本人に考えていただいて、4~5を重点的に指導するという形を取っていました。というわけで4~5は本当は誰かと話し合ったり意見を貰ったりしながら進めたほうが楽ではあると思います。
テンプレート
1.一番描きたかった部分は?
要するにテーマのことですが、「登場人物Aの横顔の美しさを描きたかった」とか、「登場人物Aと登場人物Bが手を繋ぐシーンが書きたかった」とか、「やさしい雰囲気の話を書きたかった」とか、ごく小さなことでも問題ありません(もちろん、壮大なテーマでもいいと思います)。
大事なのは、何を書くつもりだったか? という点を見失った際、思い出せる状態にしておく、あるいは途中でもいいからはっきりさせる、ということです。
2.何のために作品を作ったのか?
テーマと分けていますが、「自分で楽しむため」「友人に読ませて喜んで貰うため」「SNSの更新のため(定期的に更新したい・同好の士と知り合いたい・自分の意見を発表したい等)」「とにかく思いの丈をぶつけて心情を整理したかった」等、具体的に誰に宛てて、何を目指して書いた作品か、ということをはっきりさせましょう。
これも、何のために書いているのか? という点を見失った際、こっちに向かって進めば良いんだな、ということを思い出すためにチェックします。
「書くこと」と「読ませること」はイコールではありません。自分自身でもいいので、読者は何を求めているだろうか? という点を常に意識してください。
3.自分としてはこの作品のどこが気になっているか? どこを直したいか?
自分の作品の問題点と思える箇所を書きだしてみます。
書いてみると、意外と小さなことで悩んでいるなと感じることも、すぐに解決策が思いつくこともあります。
4.この作品の強みは何か?
これを掘り出すのが一番難しいと思うので、ここだけでも誰かに相談できるとよいと思いますが、ひとりでやる際は以下のような点を留意してみてください。
さらさらと軽い気持ちで書けた部分は書き手さんが元々持っている強みで、何も考えなくてもできることなので、大切にしましょう。自分にとって「当然できていること」が意外と他の人には苦心する箇所だったりすることもあります。
自分にとっては「ここがだめなんだろうな」「直したいな」と思えている箇所が、特別な個性になっている場合もあります。直した方が良いのか、自分にとって大切な部分なのかは、よく考えて見極める必要があります。
5.直したいところは強みになり得るか?
ポイントとしては、「その直したいところを直すことは、自分にとって快適な状態か?」ということです。これまでは「直したいところ」だと思っていたところが、実は自分の「強み」だった、ということはよくあります。
たとえばよくある例だと以下のようなものがあります。
・台詞はさらさら書けるが、台詞ばかりで話が進まない。→台詞を書くのがうまいので、会話劇に力を入れて書いていくのがよい。
・セックスのシーンが重く、「萌え」がなくてウケない。→重厚な性描写を通して描けることもある。「萌え」に行きたいのか、自分の本当に書きたいものを考えてみる必要がある。
・興味のあることばかり書き込んでしまい、全体のバランスが悪い気がする。→興味のあることに特化した作品作りをするとよい。必ずしも興味がないことを描く必要はない。自分の関心を大切に。
「強み」には到底なりえないな、本当に直した方が良い、と思うこともあると思うのですが、とにかく自分の得意分野と不得意分野を認識して、得意なことをぐんぐん伸ばすのが一番大切です。今は無理だなと思ったらあっさりあきらめて、できることをやるのが良いと思います。
大事なのは焦らないこと、そして自分の魅力に対して照れないことです。
それでも絶対に直したいときは……悩もう! 正解はないので、自分にとって心地よい結論に全力で向き合ってください。
おわりに
ここに書いたのはかなり基本的なことですが、小説(あるいはその他にも色々な創作)を始めよう、と思っている方のお役に立てれば幸いです。やめてそろそろ1年になるのですが、色々思い出して懐かしい気持ちになりました。
これまで関わった皆さんが素敵な創作活動を行っていらっしゃいますように! &このエントリがこれからもお役に立ちますように!