home > 短歌と日々
喫茶室どこも閉まって行き着いた席にあなたを招いてる夜 空からは何にも降らない午後七時机の上に水の輪を見る パフェに差すスプーンの先少しだけ割れててこれじゃ殺せないよね 花束を足したり引いたりしてくれた店員さんに一輪捧ぐ しょうもない人生だよと言い聞かせながら氷の角をつついた 今日あったことを順繰り思い出しながら揺れる冷房風を見ている サンドイッチ品切れとなる時ばかりサンドイッチの欲が募った 斜めにはならないように半月をそっと浮かべるクリームソーダ 星屑を集めたような点灯を順番に見てただ待っている マヨネーズ味のコーンを食べながらなんだかすごくお腹が空いた
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今日は友達のリクエストで喫茶店の短歌を作ったのですが、最近ちゃんとした喫茶店(ちゃんとした喫茶店というのは、コメダ以外のことです)に行っていないので、これは本当に喫茶店だろうか。ファミレスかもしれない。ファミレスには多いとき週2で行くので……。
金属でできた重たい心から結露していく今日が嫌いだ 狂ってる時計は直しに行きましょうそしてふたたび行くとしましょう 兄さんがいつだか言った忠告が半分くらい思い出せない 熱のあるあなたの横で座っては立って冷蔵庫を開けている ソーダ水いくつ冷やしておいたならいいかわからず持て余してる 窓からは急な落日燦々とわたしを責めてもう行くからね 早く逃げるための扉がそこにあるというのにまだ突っ立っている 手をとってかたくむすんだ執着にもういいんだよ過去の話で 結露したコップから水簡単に泣けたらだいぶよかっただろう 転落の理由も意味も裏付けもだから何って話だけれど
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色々あって5月くらいからぼちぼち創作BLを書いていて、けっこう気に入っています。内容は気分の良いものではないので気分が悪くなりたいときや気分の悪い創作物が好きな人が読んでください。→「コードゴースト」
自分以外の人にとってほぼ興味のない、自分にとって価値ある創作物がこの世にあるということに、かなり意義を見いだすタイプなので、自分で自分を救っています。創作物との付き合い方はこれが一番良いと思う。
でも自分で書いて自分でキャラクターに愛着を持つということが特になかった創作人生だったので、自分の考えたキャラクターについて考えて遊んでいるのはどことなく不思議です。つい他人が考えたもののように扱ってしまう。別にそれで悪いということはないのですが。
抜け落ちたレンズがなくて眼鏡から先の世界が蕩けて落ちた 愛情を込めて贈ったはずだった箱の中身はなんだったかな 理由なき電車に乗って予定より先に進もう女王になろう 来たことのない道構成要素だけ拾えばだいたい同じであった 走っても走ってもまだぼんやりと泣いてるような視界が続く 見えないよ綺麗な光がふかりとかへかりに変わってしまったみたいに 女王にはわからぬ涙を今のうち流しておこう忘れる前に 赦すという行為の前に茫漠と広がる嫌悪の地平をゆこう 冷凍庫の中で今でも冷えている一回溶けて固めたアイス 地獄には多分そろそろ着いたらしいけれどおまえと手を取っている
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ストーリーの一番盛り上がるところで一番盛り上がって楽しくなりたいという欲望が希薄で、盛り上がるところにさしかかっているな……と思っているぼんやりした遠い感覚に包まれながら見ていることがよくあるので、損をしているところもあるが得をしているところもないではないだろうと思う。いつも細かいところが気になっていて、それはストーリーにとっては重要なところではないのかもしれないが、細かいところは細かいところでそこに置かれた意味があるわけなので……。
ここに書いている文章は短歌の解題というわけではなくて、その日あったことや思ったことを書くと短歌の内容と近似になることがあるというだけです(たまにちょっと解題のこともありますが)。
今日はTODOリストの整理をしていたのですが、何の気なしに全部書き出していたら75個になり、うーん、いっそ100個まで書くか。
イヤフォンを選べないまま電器屋を出て行く今日もすごく暑いな 死が終わりじゃない証拠に死の神がいるならみんなで踊っておいて 辻褄が合わない気がしてコンビニで麦茶のボトルを選び直した コンビニを三周回っているうちにどうやら知恵の輪終わったらしい 理解する 隣に立っただけだったはずの相手が神様である 泣いている神様がいて死の国へ行けずにここに残った不覚 外側の全てを熱にくるまれて浅い呼吸で夏を飲み込む 冷風の届く座席で待っている一番大きなパフェのスプーン 深夜勤なくなる予定を話し合うバックヤードの薄いざわめき 何もかも与えることでもう二度と失わないならそれでいいから
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何年もの間特に明確な休みがあるわけではなくフリーランスの在宅勤務で働いており、あまりにも永遠に働いているので、さすがにどう……ということになり、最近は水曜日をぼんやりと定休日ということにしています。といっても定休日になったら部屋を掃除し、洗濯をし、買出しに行き、描きかけの絵の続きを描いて、ようするにふだんできない作業をやっているので作業日と体感変わらない気がする。どこか出かけたりしたいとも思うのだが、果たして……。
短歌を読み返していたら「すごく暑いな」で普通に重複していた。すごく暑いから仕方ないですね。あとパフェの歌が多い。パフェは美味しいからね。
ぽたぽたが傘にそぼ降る日々よりもはるか遠くにきた終末だ 世界樹が枯れて久しくつまりもう世界は実在しないらしいよ 椎茸が囁くシイの音からは静かな静かな森が広がる ニセモノを探して歩く本物から得られぬ滋養があると聞くから 水辺にはありえぬ砂を集めては石にしておくさらば人間 新しい枕が頭に合っていてこれで二度とは目覚めぬ予感 腹にしまう酒がぬるくて殺人の計画はもう破綻している 雑念を足掻いても無駄わたしには到底なれない曇天でした 家族たちいくつもいくつも連れ立って広げたシートに転がりました 世界ってものがかつてはあったって思い返している午後三時
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タイトルが「さよなら人類」だなと薄々思っていましたが、まあいいか……と思ってそのままにしました。暑いので人類に滅んでほしいと思ったらしい。とばっちりである。
今日は外出日だったのですが、寝坊した結果全てがぼんやりと過ぎていきました。Wikipediaを読んだり……TRPGのルールブックがほしいなと思いつつも高いなと思ったり……そういう一日を過ごしました。
サイダーの缶をあけずに抱いている間のシュレディンガーの泡たち 一日にひとつと定められているのは復讐のよう いまだ習慣 キラキラの道が唐突に広がりこの道でなら踊れるはずだ 痛みはもうなかったどんな叫びから叫びへ移っていくとしても 指先に詰まったゴミが取れなくて手洗い場まで遠い気がした 泡となるのは苦しいか珊瑚たち願い通りに消えるだけでも スパイゲーム繰り返すような蒸し暑い夢の向こうに低い銃声 獣性を掻き立てて尚もう二度と起き上がれないただの棒切れ 道をゆけ飴玉を舐めろ死を謡えこの先にもう何もなくとも 泡のような日々を探すよいつの日か終わりたいって信じてるから
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腹が痛い。暑い。眠い。正直他に言うことはない。とはいえどうにか仕事を仕上げて送り出し、次の仕事に取りかかり、時間のスキマに絵を描き、次に何を作るか考えているので、普通の生活である。
冥冥の国という場所で困難に見舞われている人のことをぼんやり考えている。もう助からないと思いながら苦しんでいる人のことを。なんにでもいずれ終わりが来ると思うと救済のような気がしている。
『日々の泡』はボリス・ヴィアンの小説のタイトル。昔大好きだったサイトも同じ名前で運営してらっしゃったので特別なタイトルである。『うたかたの日々』という訳の方が通りが良い気がするけど。
顔のないデッサン人形転がしていつまでも顔を探しています 大きさは関係がない コロッケにソースをかけたところが大事 舞台にはわたしはいないはずだった煌々と咲く花がいっぱい 揚げ物に服を着せてる夕暮れに今夜のうちにみんな死ぬのに わたしは今誰が誰だか唐突にわからなくなる街角にいる ぼんやりと腹が痛くて誰しもが信じられない街角である 大事にしていたぬいぐるみ今ここになくてひどく傷ついていた 店の前で力が抜けて行く時に誰しも敵であった街路樹 飴玉の味が知らないやつだった時に今でも驚いている 正直なおじいさんだけ助かって世界の終わりに犬を飼ってる
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パニック障害を15年くらい煩っていて、もうだいぶんおちついたんですけど、街角のあらゆるところに不安が潜んでいた時期のことはわりと創作に繋がっているような気がします。
「みんな敵」だと思っていた時期があって、「みんなと敵対している」という意味ではなく、「基本的にだれしもと敵対する可能性があって頼れる相手がいるわけではない」というニュアンスでした。今でもわりと、みんな敵だと思った方が楽だなと思っているかもしれない。みんな敵なのに仲良くできていてすごい。
具合が悪くて、コンビニで甘いものを買ってきて3日に分けて食べました。具合が悪いときの対処として正しいとは言えないが……。
目に見えぬものを調べることもあるどこまで行っても曖昧な森 愛について考え込んで電車また乗り過ごしている土曜日である 答えなき謎々を出す答えではない返答を考えている 例えれば右の相手が左ではないみたいにいつもやっていってる よくわからないですいつもどうやって目を凝らしても見つからぬ星 あいまいであるままでいるゆっくりと揺れるクラゲのようなやさしさ 手に触れたあなたの名前を知らぬままゆっくり撫でて転がしている 繋がりを忘れるように細い糸手繰り寄せては昇るだろうか 目を閉じるわかりたくないことがあるちくちく痛いあざみ野へ行く 見たくないものは見ないでおこうって決めて走った日暮れの夏だ
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目が悪いので、「よく見えない」ということにすごく興味があって、見つからない、全貌は把握できない、何が描いてあるのかわからない、漠然としている、そして急に理解できることもある、ということがかなり自分にとって価値のあるものであると思っている。
クトゥルフ神話TRPGというゲームを5年くらいの間やっているのですが、このゲームは伝統的にかなり「目に見えるもの」を重視する傾向にあり、なんとなくぼんやりとそれに納得がいっていない部分がないでもなかった。それで『冥冥の国』を書いたんだと思います。
唐突に理解が及ぶここはもうあなたがいない世界であった 自分のほか何が必要なのだろう国を作るという工程に 独立をしているひとり歩いてる勇敢になる 死にたくはない 空腹を抱えて歩く試練から一体何を得ることになる? 頭の中は自由でいつでも広がってゆくさ広場を作るみたいに 上着を売るかわりに靴が新しくなったひたすら歩いた旅路 座ったらダメだよ懐中電灯をひとつあげるよもう行きなさい あなたとは自分以外で国に住む誰かのことでここにはいない 国を作る わたしのエリアに住むという全てのものに祝福をする ただひとり歩いてゆくさいずれまた全てはわたしのものになるから
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『終幕TRPG 冥冥の国』というTRPGシステムを作りました。
『冥冥の国』というタイトルには、どこにもない国、見えない国、全貌は把握できない国、黄泉の国、異界、というニュアンスを込めていて、この場合の「国」というのは場所、エリア、世界、くらいの意味です。区切られた領域、閉ざされた空間、みたいな感じ。迷い込む場所でもあり、生活をする場所でもある。自分には理解できない場所にいるとしても、生きるというのは細かいディティールの積み重ねなので、実際は理解できること(食べるとか、考えるとか、寝るとか)を組み立ててある程度の理解を行っていく、みたいな、そういうつもりでした。
何もない世界をつくるだけになる神様みたいな熱病だった 急にいま速く速くと騒ぐ虫たちが心中にいて光となった 夢見ているだけのようだが雪原はもろくつめたく痛みを発す あと少し食べれば終わる夕食を思い至って端から捨てる 成長をしているんだねパキパキと割れる音すら立てる孤独に 親をいずれ殺して幼年期が終わるどうせこんどは始まりが来る ぬるい海あなたとわたしが如何様に他人であるかもうわからない 主旋律やがてこなごな 物質はなべてそうして在るのですから うつくしくおなじかたちであれという制服を着る呪いであった うつくしくもないのが自由 そこからは自分の足で走るんですよ
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市川春子『宝石の国』を11巻まで読んだので今日の短歌はそれです。子供時代がようやく終わって青年期にさしかかったところという感じなのでこのまま中年まではやってほしいと思うのだが(いまわたしが中年だから……)ストーリーテリングの都合上老境までもしやったら老境すごくきれいにまとまりそうで、別に老境に至ったからきれいにまとまるのが人生じゃないだろみたいな気もするので、精神年齢の話というより解脱の話になるのかな……。
ずっと何も得られなくて愚かであっても『喪失』の権利は誰にでもあるというのはわりと希望、という気もしました。まあでもどっかで反転して「喪失を伴わない純粋な獲得だったけどそれはそれで満たされない」という展開にもなってほしい気がするが、なにしろここまでで11巻なので、50巻くらい続けないと人生の話にはならんだろと思ったのだが、どこまで続くんだろう。