外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

小説

バレンタインデー
肉が食いたい、と言われたので、冷蔵庫の中身を思い出している。なにが食べたいと指定してくるのはありがたいのだけど、もう一歩の発展を願いたい、肉が食いたいと思っている時、ほんとうは、肉の種類まで見えているはずなのだ、豚肉なの […](更新日:2011月2月14日)
おめでとう
彼は彼の住んでいる国を、はるか遠い国、と呼ぶ。それは僕の住んでいる国でもあるのだから、僕は生まれてからこのかたここ以外の場所に住んだ事はないのだから、彼がそういう言葉を使うたびに、違和感がある。でもとにかく、彼にとってこ […](更新日:2015月7月4日)
おやすみ
わたしには好きな人がいたはずだ、ということを、突然彼女は思い出す。彼女は自宅にいて、仕事を終えて、彼女の生活において最低限のラインの酒を飲んでいる。世間には朝が来ていて、彼女にとってはそれは夜だ。その逆転した生活を、彼女 […](更新日:2015月7月4日)
ありがとう
角はアンテナのように彼のなかからあらゆるものを吸い上げてゆく。 そして彼は拘束されてあらゆる刺激を排除された部屋のなかにおり、何を見ることもない。何を見ることもなにを感じることもなにを考えることもない。 彼はもううしなわ […](更新日:2015月7月4日)
ただいま
子供の頃の夢は平凡な家庭を持つことだったと彼は言う。そしてそれはある意味で叶っている。彼は養うべき人間を持ちある意味で家族と呼べるものを持ち彼らとともに暮らしている。彼らは賞金首を探し歩いてはそれを殺し賞金を手にしてまた […](更新日:2015月7月4日)
さようなら
インターネットをするのは禁止、と言われた。 教師と親が集まって、子供がインターネットをすることの危険性について話し合ったらしい。そうして彼は、いまいちばんおもしろいと思って遊んでいた楽しい楽しいおもちゃを取り上げられて、 […](更新日:2015月7月4日)
はじめまして
彼は煙草を吸うことができない、ただふかすだけだ。彼は酒が飲めないし、ブラックコーヒーを飲むこともできない。彼は自分が「子供だ」と思う。彼は自分がそうであることを恥じていて、だから全部「できるふり」をする。 彼はトレンチコ […](更新日:2016月1月4日)
架空の鹿の死
この物語はフィクションです。 唐突に泣き始めたのが午後四時だった。どうしてだかわからないけれどわたしは午後四時という時刻が嫌いではやく五時にならないだろうかと思う。五時になったら夜だから眠ってもいいというルールをいつ決め […](更新日:2016月1月28日)
散文
どうして愛していると一言も言わなかったのか、と彼が言う。 森の中で朽ち果てていく男を見ている。そうしてなにもかも全て朽ち果てていこうとしているというのに目の前にいる男は美しいので絶望だった。どこまで墜ちればこの男は同じレ […](更新日:2016月1月29日)
架空の鹿の死(2)
この物語はフィクションです。 午前八時に起きた。わたしは自分が泣いているのを確認した。オーケー、涙はここにある。それはよいことだった。少なくともそれは間違っていなかったし誰を傷つけることもなかった。わたしはわたしの鹿を殺 […](更新日:2016月1月29日)
架空の鹿の死(3/そしてこれでおわり)
この物語はフィクションです。 話し合おう、と声が聞こえる。そうだね、とわたしは答える。 わたしの部屋がここにある。わたしの部屋、わたしの頭痛、わたしのロキソニン。ロキソニンは「いざというときのために」友人がくれた。わたし […](更新日:2016月1月30日)
異文化交流総菜録(1)夏目漱石と大根餅
米を砥ぎ、浸水する。かつおを煮てだしを取る。豚肉とたまねぎをみじん切りにし、卵、小麦粉と混ぜ合わせ、ラードでじっくり揚げる。冷凍した豆腐を前日解凍しておいたものをよく絞り、一口大に切って、かつおだし、醤油、みりん、酒で煮 […](更新日:2016月5月9日)
異文化交流総菜録(2)村上春樹とクレソン
バターを多めにパンだねを捏ね、電子レンジを使用して発酵させている間にスモークサーモンを買いに行く。戻ったら整形し二次発酵。鶏肉を弱火で焼いて油を出し、油を取りよけるか捨て、酒と塩で軽く煮る。パンをオーブンに入れる。玉ねぎ […](更新日:2016月5月14日)
王国で会いましょう
「ねえ、それ、旧型キャップレスじゃありません?」 いいにおいのする女の子、というものに気後れをするのは年を経てからも変わっていなくて、同じエレベーターに乗ってしまったのが運のつきだと思っていた。非の打ちどころのない美しさ […](更新日:2016月5月16日)
ケーススタディ山口君の場合 1-1
Q,山口菜種君はサラリーマンを経て唐突に菓子職人になると言い出しフランスに留学して帰ってきたアラサー男性、辻菜摘さんはサラリーマン3年目で公私ともにめちゃくちゃになった結果自殺未遂で入院後鬱を通院治療しながら現在アルバイ […](更新日:2016月8月9日)
ケーススタディ山口くんの場合 1-2
ここにいるのは辻菜摘さん(腐女子歴16年)と、その大学の先輩こと大学二年生の時同棲していた相手である山口菜種くん(脱サラパティシエ見習い)であり、場所としてはパティスリーが経営する洒落のめした創作料理レストランだった。馬 […](更新日:2016月8月10日)
ケーススタディP子さんの場合
P子さんは悩んでいた。 P子さんには当然本名もあればHNもあるのだが、もっぱらP子という名前で親しまれておりなんならTwitterのユーザーネームもP子としている。P子のPはプロのPであり、何のプロかと言うとこじらせのプ […](更新日:2016月8月23日)
ケーススタディ田中の場合
あらゆる同人関係の友人知人は、田中の本名を覚えられない。 あまりにも田中の作風とかけ離れているからである。 田中とP子さんは友人である。全然作風は被らないのだが、友人である。きっかけとしてはP子さんがTwitterのサブ […](更新日:2016月8月23日)
昼食前の百年間
祥真はその日満ち足りて幸福だったはずだったのである。 彼はいま全裸で湯につかっていて、湯からは薔薇のにおいがした。小さなボトルのワインを、そうっと持ち上げた長い指を、ぼんやりと目で追っていた。ワインといったって三百円のコ […](更新日:2018月6月4日)
ウルトラマリン・ブルー
※考証等まじめにやっていないので雰囲気で読んでください ※44歳×17歳夫婦/性的表現を含む父子関係の児童虐待/差別的表現 ※異性装を否定する目的の作品ではありません     :::::::::: & […](更新日:2021月2月1日)
コードゴースト① レコード(R-18/!注意:強姦)
建物自体も庭も、やたらに広い家だった。 21歳、花冷えの頃だった。湖の傍にあるその家で、伸行(のぶゆき)は長い間、祖母と二人で暮らしていた。 両親が死んだのは5歳の時、祖父が死んだのは12歳の時だった。一緒に遺された姉と […](更新日:2022月5月4日)
コードゴースト② 土の味
「陸空(りく)を殺した」 電話の向こうで伸行がどうしていたか、覚えていない。それが最後のやりとりだったのだから、覚えているべきだった、と紫蘭(しらん)は思う。伸行がどう息を飲んだか、何を言おうとしていたか、それとも何も言 […](更新日:2022月5月28日)
コードゴースト③ 降る黄昏
駆け込んだ教室は黄昏だった。伸行は、自分がどうして走っていたのか思い出せない、と思い、振り返る。そこは夕暮れの学校で、背後には誰もいない。走っていた理由はなんだろう。忘れ物を取りに来たところだったのかもしれない。焦らなく […](更新日:2022月6月1日)
コードゴースト④ 知恵の輪を解く
なにが転落でなにが上昇だか、本当に理解できる奴がいるのか。 森園志乃生は今でもベースギターを弾いている。ライブに行ったことはないけれどテレビに出ているときは見ることがある。志乃生はあの日以来、帰ってくることはなかった。多 […](更新日:2022月7月6日)
金星は女である
知らない場所にいる。 とはいえ極端に知らない場所というわけでもない。辺りを見回せば、まず視界に入るのは引いたままのカーテンで、カーテンはまっさらに新しい。辺里(へんり)の家のカーテンは同じ場所に二十二年ほどぶら下がってい […](更新日:2022月7月14日)

return to page top