外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

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2022年

割れる太陽

いつもにも増して上手なあやとりをさっさと次へ繋げていって
うつくしき地平に君が降り立ったのは狸の仕業でいいよ
シャワー室端まで拭いて出る時に嗅いだ昨日の夢で見た水
まんまるに磨いておいた星が今話し始める異国の言語
かつて夏絞ったレモンと共にある炭酸水として生きていた
夏休みが来るはずだよ太陽がぱっくり割れて垂れ落ちるとき
終わらない時を過ごしたあの夏の分を加えてかき混ぜましょう
痛むのは一緒にいないあの夏の間にすれ違っていたこと
ルールとは違うとしても生涯で一番手強い試合をしよう
一年分太陽の中に攫われていたから君と階段にいる

美術館に……行こうと思いながら……ダラダラ労働していて……美術館って十七時で閉まるので……気がついたら十四時で……なんだかんだで多分つくまでに一時間くらいはかかるし……二時間くらいで全部見られると思えなくて……結局TRPGシナリオ書き始めちゃって……。

来週は行きたいです。

ようやく来世

ライラック色に染まった夕方を食べてこんなに大きくなった
丸いのは一体どこの鬼だろうゆっくりゆっくり定量になる
いつまでもクラスメイトでいるはずもないのに夢は鮮明である
喉すべるパチパチ音が消えるまで一緒にいたら君は夏の日
秋になるまでは覚えておいてよね柿の実必ず分ける約束
猿に似た姿で生まれてくるという約束をしてようやく来世
ちょっとだけ時間あるから寄っておく墓地の向こうに白い半月
やめたらいい質量保存の法則が実はないって言い張らないで
あしうらにベタベタ触れる感覚に今気づいたよなんだおまえか
向こうでは光ってみえているだろう灯り一分見上げて パチン

一回書いた十首を誤操作で消したので悲しかったです。

月見酒

月を見る時にわたしは走ります月がどこまで来るか知るため
丸顔の店主がふいに窓を見て「もうじき月がふたつになるよ」
溶けていくチーズの味を思い出しながら自転車を漕いでいく
焼き魚の骨を抜いたら急にもう崩れて消えてしまった夕餉
知り合いがいるかもしれないパーティーに行くかどうかはコインで決める
ざらざらの舌先が熱を帯びていておまえもどうやら生きてるらしい
死ぬまでにトランプひとくみ取り出してジョーカーだけを連れてゆきたい
単純に分厚く切った羊羹を頬張っておく随分黒い
零時とは思えぬほどの明るさの真円である月を見上げる
わたしとは切っても切れぬ関係の月と呑んでる酒のゆらゆら

狸のことを考えていたので月見の歌を。

祝! 納品待ち0! となり、雑な飯をダラダラ食べたあとで、米を炊いていたのを忘れていたと気づきました。冷凍しなくては……。

眠る子供

外国で眠る子供に繋がった糸電話から聞こえる吐息
晴れの日に食べたクレープから落ちたバナナひときれまだ落ちている
体から放射されてる体温をいつも感じず生きているのに
カタカナで書いた名前がなによりもカッコいい気がした七つの日
牛乳をためしに三本買ってみる自分にすごく期待をしてる
コップからこぼれる前に水を飲む流しの前に表面張力
キラキラを耳から下げてみるという試みをしてくれてよかった
ずんずんと歩幅をあけて歩きたい胸のつかえは梅干しのせい
話したこと全部嘘だよ今言った君に会いたい理由のなさも
息をしているって確認できたからおやすみなさいを言わずにおわり

クレープ屋さんの前でちょっと悩んでクレープ食べなかったことを今ちょっと後悔しています。

このあいだ、北野勇作『クラゲの海に浮かぶ舟』を読み終わり、ちょっと泣きそうになりました。

甲羅干しの世界

亀たちの上に世界があるという世界が群れて天日を浴びる
二時間を過ごした昼の光からどっとねむけが差し込んでくる
おひさまをあたえて闇夜を育てては夢から覚めるさよならをする
ねむたさを堪えては朝昨夜から持ち帰れない荷物がひとつ
助かったように思った水没の機械類から聞こえるサイン
朝という別れをいつか知るならば故郷はいずれ見つかるでしょう
滑り落ちてゆく眠りの狭間では会える仲とは思っていたが
かき氷掬う小山を落ちてゆくシロップのゆるい速度で行こう
世界とは目を閉じてから開くまでみんなで維持した闇夜のことだ
誰でもいいわたしを乗せたままつぎの場所まで静かにしてね

ワクチン接種発熱の二日間を超えて平熱の世界に戻ったため、はしゃぎ倒してあらゆることをやりすぎた一日であった。

ブライアン・ラムレイ『幻夢の英雄』を読みました。男と男と美少女! 思いのほかスチャラカ! 面白かったです。

ためらい

ジャンプするように言われた道幅をまだ測ってはためらっている
首筋に冷たいシャワーを浴びながら今日の最高気温はいくつ
人間の掌ほどの大きさに爪を立てたら軽く外れた
ロボットの猫が何匹いるのかと確認してるこどもはふたり
動物の全てがいない世界ではロボットだけが猫と呼ばれる
電源がまだあるという確認ができてうれしい五劫の目覚め
我々が全て眠って目を覚ます手順を踏んでファミレスにいる
練習をどれだけしてもミッフィーのような線画になれないままで
フルーツの缶の全部にゼラチンを入れたみたいに固まった夜
ほら早く 宇宙船から伸ばされた指にもきっとためらうだろう

ガスト(ファミリーレストラン)ではいま、気持ちばかり猫ということになっている、1メートルほどの細長い配膳ロボットが働いていることで話題ですが(ロボット自体はあちこちで見かけるもの)、あれは耳がついている以外猫には全然似ていないので(硬くてでかい)、もしあれだけが一億年後の世界に残ってそれ以外全て死滅したら猫を再現するのはものすごく困難になるでしょう。

一億年後の未来人は、猫とは1メートルくらいある生き物で、配膳をする習性がある、と考えるのでしょう。

知りたくないこと

どうしても開いてみたい箱ならばお手元にまでお届けします
雨晒しのなかをあゆんでゆくときに固い甲羅があってよかった
事件性なくなったけど秩序すら一緒に消えたように思える
鉄板で焼いて砕いて粉にしてわたしとあなたをひとくみにして
かなしくて夏休みという固まりを覚えていないようになりたい
クラゲから届いた記憶の中枢を食べて大人になる時が来る
ようやっとわかった時にむちゃくちゃに受け取り拒否がもうできなくて
死について食べ続けてること自体忘れてしまうほうがいいのに
嫌になる 答えは知りたくなかったと今更笑顔で言われたってね
結末だけ知りたくて今めくってるページの残りがふいに途切れる

一日中絵を描いていました。楽しかったです。

カレンダー

玉ねぎの一枚を剥ぐ続きがまだある時に見る宇宙の彼方
信用をしてはいけない鎌鼬家族で過ごす時間でしょうに
空ならば割れぬ球ではあるものの白い切れ目がまっすぐにくる
鍵という鍵のすべてを閉めた時もう出られない確信を持つ
逃れられない光をも記録した手帳を一冊手に入れました
知りすぎた時は忘れるためセロリ一本籠に入れておこうか
カレンダーめくったあとの紙の裏白くて永遠に似た色だ
神様がゆるしたことで白色になれた兎が月に行きます
知りたくないと告げる富を持っている続く線路にまだ立っている
日付からはみ出た場所にメモをしたあとのへこみが証拠であった

寝ても寝てもいつまでも眠い。

あしぶみ

鶴たちがランチタイムの終わり頃家庭に帰る服を着ている
ぬるま湯に身を浸しては今日一度けものの体に触れてみたこと
小屋に行く時に尻尾を振りながらわたしの体は雨に濡れない
禁じられた扉をあけてわんわんと愛しているからここにいなさい
楽しくて鳴くようにすら生まれずに曖昧なままあしぶみをする
足を出すついでに前に進んでるといった様子の犬が一匹
ひびく桃欲しいと泣いた姫君といつか約束できるといいね
どこにでも行けるしどこにも行かなくていいならそれはそれでよかった
やわらかく敷かれた上に丸まっているときわたしもけものであれる
滅裂な言葉をいくつか書いてみて鳴き声じみて思えて鳴いた

YouTubeで犬小屋を作る動画を真剣に観ていたら、短歌を作りかけたまま放置していてそのまま忘れていました。今日は何をする気も起きなかったが、何をする気も起きない日でないとYouTubeで犬小屋観ないので、それはそれでよかったかも。

おかゆさんにする

月からは兎がやってきたという夜が明けたら白無垢の雪
燃やされた毛皮はどんな色だった月にのぼってしまう依然の
意味はない名前に意味がついたのであなたに会えてかなりよかった
ハイボールさいころの数飲み干してりんろんころんまた転がった
音だけをひとつ鳴らしてゆっくりと確かめているおなかのなかみ
とけてゆくふうにこだます輪郭があなたであってわたしのような
やがて朝おなかのなかみがからっぽになったあたりでだれもいないね
恋心あっただろうか人に似て里へと降りた蛇一匹に
お日さんを浴びて消えたらさようなら 雪兎から落ちた南天
ぐずぐずになった気持ちを鍋で煮て少し冷まして晩飯にする

二首目、ほんとは「以前」のつもりだったんですが、「依然」でも良い気がするのでそのままにしておきます。

昨日の夜、急に滅茶苦茶になっちゃいたくなり、今日は1日8時間(+休憩3時間)使ってクトゥルフ神話TRPGのシナリオを1つ書き上げました。急に無から書いたわりに書けてよかったです。兎の話を書いたので短歌にも兎を出しましたが、内容は関係ありません。

日本で起こるあらましすべてが嫌になったので、動物昔話と妖怪の話ばかり読んでいます。

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