外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

架空 Ⅳ(百万年) 百万年

こんにちは今夜の煮物さしあげる来ない人なら死んだ人だわ

クレセントムーン片手に飲んでいるつまさきに猫声なき声で

大好きな子猫の声を聴いている午前三時に呪われている

「けいこうとう、かえないと、もう、あしたには、世界がおわってしまうんですよ」

レンジには光がとらえられている出口はないのにただあたたかい

あたらしい薬を処方されるたびこれで火星に行けると思う

デフラグをしている君にもう二度と触れなくなる処理された僕

無垢だったあの子はさっさと死にまして残った部分でどうにかですね

湿り気をおびた虚空に埋められたあの子の声に耳を澄ませる

枯れ井戸の底で眠った君を汲む 百万年も眠れるだろう

百万年過ぎたら土にかえるから声のかそけさ残らないよな

星ひかる空の高さの果てまでも一緒に行くって言ったじゃないか

いつだった? 片手に握り合っていたフックの先にもうなにもない

あの夜に君の不実を呑みこんだ男はこんな顔だったかい

神様は不眠不休で全員のイイネをきらきら光らせました

愛されるために生まれた僕だから愛してくれない君はいらない

鬼さんはこちらへどうぞずいぶんと苦しいみちゆきだったんでしょう?

ひどい目にあわされている塩漬けの鮭は三日も冷蔵されて

僕のこと好きなの? 狂った心境を千文字以内で聞かせてくれる?

終バスのねじを外した僕たちはどこにも行けないはずだったのに

死ぬときはふたり一緒と言ったのは嘘です夏にまた会おうよね

以上 雲丹たち 砂糖たち 友人 僕は海辺に向かっています

十二時のおわりを包む無関心メロンソーダのように悲しい

するすると蛇にならずに突っ立った僕を責めてる海は嫌いだ

悪い子を鞭打つときは回数をよく数えること、あとほう・れん・そう

すばらしい夜ばかり過ぎ僕だけが灰を被って まめがにえたよ

狂ってるボタン三回コールして僕が出るまで鳴らし続けて

デーモンを食いつくしたら春の闇煮えるまなこにとぷりと落ちた

百万年生きたあとなら言えることはつなつ闇が遠かったこと

ラーメンを食べに行こうよ約束を取りつけたなら自殺はやめだ

細い空きりおとしたらふたりきり声を持たずに 月がきれいだ

ぬるぬるに埋もれて電車を見送った おかえりなさいここが現実

どこまでも行けよ懐中電灯の電池は交換しておいたから

「あんたはさ、かわいそうだね花びらの一片すらも手に入れないで」

そとがわのかたちなんかはどうだってきみさえここにいてくれるなら

とまどいながらやさしくうそをつくような夜空にくちづけをした

茅の野に吹かれていたの猫だけに見える世界を僕は見ないで

うすぐらいところで壊れつくすまでおまえをかえしてやらないからね

百万年後には僕たち土になり湿った声を混ぜ合わせよう

おやすみ くりかえしの今日をおなじ視野から守り続ける

かわいそうな僕らそれでも幸福をぱっかんぱっかん猫まっしぐら

百万年過ぎてゆきますその後には赦しの消えた世界があります

僕たちは生きるのだろう 湯船には金の卵が浮上しつつある

いつまでもこのまま俺たち行くのかなリピート再生ボタンを押して

そうやって二匹は背中を向け合って一心不乱にみゃあんと鳴いた

新しい記事
古い記事

return to page top