外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

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2022年8月

くうはく

いつ死んだのかよく知らない恋人と午前一時にラーメンを食う
迷い犬警察に行けと指差してわからんのなら連れて行こうか
恋をするというのは元気が出ることとテレビで誰かが言っていた気が
いるのかももういないのかもどっちでも心の中の問題だから
手を繋ぐ感覚なくてまあいないからねと思う交差点にいる
愛情を空白ととってざるにあけるポン酢をかける眺めている
いやだって別れてないので付き合っていると思うよもう死んだけど
いいうちのぼっちゃんやからわからんと色々混ざった方言で言う
ってこと僕のこと好きらしいという設定でしかないのはそうね
別に不幸とかではなくてラヴァーズという「ひとり」でビールを干した

変な時間に寝て、変な時間に起きているので、最悪のループでこのまま夏バテに落ちてきそうで困るのであった。明日は一日ぼんやりしていたい気もするし、遊びまくりたいような気もするし……。毎日、ゆっくりしたいような気も、踊り続けたいような気もするし……。

部屋のそと

鍵穴を覗き込んでも暗闇が広がるばかりの子供部屋である
たくさんを並べていくと最後には絵になるという噂を聞いた
子供時代呼ばれたことのある名から脱出できずに蹲ってる
じんじんと耳が痛んで音楽を求めて空の水筒である
膝裏にくちづけをする支配する子供の頃の名前で読んだ
これだったと思った答えを言ってみて本当なのかわからないまま
完成をするかもしれない塔の下まで辿り着いたはずだったのに
要らないよ熱病のない世界なら聞こえていたかもしれない声は
黄緑に染まる木陰で見上げたらああ夢だった湿った体
汗ばんだ体を撫でてもう二度と鎖は外してあげないからね

今週いろいろありクチャクチャになっていたので、部屋の掃除をし、スッキリしました。たったこれだけの空間によくもまあこれだけのゴミと服と本があるものよ。

風の世界

ぐるぐるの風に吹かれて台風があなたを目にして回り続ける
かげぼうし小さくなるまで見送ってゆっくり崩れていった明日
嬉しいと思っていても何もない星でひとりでただ待っている
風になるときは大好きなんていう邪魔な言葉も聞こえないから
想像をしてみたらもうわかりそうなのにつま先だけ引っかかる
奪われたみたいだよって告げている空白ばかり広がる砂漠
あなたとは離れてみても遠い目で見ればやっぱり近づいている
違うみたいに踊る相似が目の前で揃って片手を差し出してきた
行きましょう 灯した火にはかなしみがないとわかっているはずでしょう
どうか虹が見えたときは教えてねこんなノイズのさなかにいて

たくさん遊んだのでいい日でした。

たこ焼きにハマっているのでそろそろ自分でも作れるようになった方がいいかもしれない。ホットプレートがあるのでやろうと思えばできるのですが、家でたこ焼きを作ったことがないので、できるという事実に慣れていない。

ある晴れた日に

ある晴れた空に釣り針突き刺して向こう側まであなたを呼ぼう
立葵するりとのびて背丈だけあなたに似てきた細い首すじ
島にある墓をいくつか巡るため借りるレンタカーの白色
猫たちが一斉に散る室内は冷たい風が満ちてるだろう
おかえりを言われる前に来たよって端的に告ぐ帰宅ではなく
強情な人だと言った少女ひとり麦わら帽子をついと差し出す
助手席の子供がつまみあげている私の薬指の空白が
魚には生まれられずにあの夏をなかったことにしている家族
「大人にはいずれなるから母さんのかわりにしてよ」に気づかないふり
空からは唐突に降る縦線の雨に貫かれて留められる

Twitterには男同士のエピソードとして投げたんですけど、女同士の方が良かったきがしたので、こっちは女同士にしました。

田舎が島にあるので、夏というと島で墓参りという個人的な思い出があります。

三年

金木犀ゆれるいっとき迷家に行ける気がして下を向いてた
あなたもういない校舎の裏側のコンビニエンスストアまで行く
ぬばたまの残業代を数えてるオフィスグリコの何回分か
月面の兎たち今泣きながら働いている同じ感じで
ただ一度あなたが声を聞かせたというそれだけの三年だった
学校の太鼓が鳴る時見上げてた校舎の裏のビルの四階
お茶碗についでしばらく放っておく耐えられないの少しの熱も
屋上のプールに今すぐ飛び込んで月まで帰る迎えを待とう
あなた今月面以外どの場所でどんなかたちの影と踊るの
手のひらがインクで汚れていることに気づいた妙に明るい廊下

何年も詰まっていた作業についに着手できたので今日はよい日でしたが、相も変わらず夜更かしをしているという意味では今日は悪い日でした。悲しいことである。

盆なのでスーパーマーケットがごちそうらしきものであふれかえっており、半額になったところをしめしめと買って帰りました。実際にごちそうかというと微妙なのですが、いつも食べないものであるという点はそうです。

ぽとぽとの夢

どこまでも続く部屋から部屋ごとに行けば行くほど花が開いて
ぽとぽとの地面を踏んであっこれは夢だと思うけど手遅れだ
永遠になってしまった蟹たちを泣きながら次々に割ってる
リリースは明日に迫っているというのに食べている大きなチーズ
ゴージャスなつまみを買って持ち帰りながら酒など飲めないのだが
おなかすいているなと気づくころにはもう取り返せなくなっていました
続けてはみているけれど正中線通りに生きることはできなくて
兎から受け継いできた酒瓶をうっかり割ってもう手遅れだ
部屋からは溢れているけど大丈夫そのうち乾いて消えていくはず
おしまいに美味しくなってから気づくああ下拵えをされていた

あまりにも眠く、出かけたかったのに出かけられず、悲しい思いをした。

ぱりぱり

ざりざりとひたすら落とすにんにくの強い匂いに満ちた夕暮れ
ぐったりとしている庭で一日を水に浸してただ過ごしてる
溶けていく殻を剥いては落としてる紺色の夜に混じっていった
海辺には行けないままで食べているまだ柔らかい皮で包んで
綺麗だねひだがたくさんある肉の一番奥の赤いところは
水のない場所でぱりぱりになるまで焼いた気持ちを口に運んだ
指先が粉っぽいからしばらくのあいだ舐めてはおしまいになる
常温に放置している塩昆布まみれの板をぼんやり見てる
同じように並んでいればそのあとに成長できる機会があって
あたためた日常をまだ待っている材料としてまた夜が来る

フォロワーが餃子を作っていた作業通話にはいり、今日の短歌のネタが特にないという話をしたところ、じゃあ、餃子で……ということになり詠んだものです。今日は本当に本当に何にもしなかった。そういう日もある。

どこまでも落ちる

買い出しの荷物に混ざるやどかりの外側にある家に住んでる
舌先に塩を盛ったら体内に入れぬ霊とくちづけをする
怪物になれそうもなく外殻について思いを馳せる熱病
わたくしの体表に棲むものたちも緊急会議を開くのだろう
嘔吐には限りがあってよかったと髪を持ち上げながら思った
トイレットペーパー落ちる階段の先はどこまで続いているか
来週はシャインマスカットタルトをワンホールずつ召し上げようぞ
理解した時に感じた快楽を今から送るいいねに込める
霊は言う「あなたのなかはあたたかく湿っているのでしばらくいます」
ものすごく好きと言っても拡大が可能な範囲は限られている

4年前に書いたクトゥルフ神話TRPGシナリオ「夢を見る子ら」の改訂新版を作れたので今日はよい日でした。街に繰り出しておいしいものを食べました。おいしいものを食べると脳がパーッと開く感じがするが要するに高血糖なのでよくないと思う。

最後の秋

新学期いずれ終わりが来るという回転木馬のような歓声
アパタイト間違えたならそのままで欠けた光を転がしている
面倒見の良いことでは償えぬ年を重ねてきたという罰
指先を切って汚した本からはもう助からぬという声がする
大理石造りの風呂のバスボムのマーブル模様は途中で悲しい
やわらかいことが理由で切り裂いてしまったぬいぐるみの肉の白
混ぜ物が多いコーヒー牛乳を半分飲んで飽きている秋
破れ果てたカーテンの裾を引っ張って別れてしまう暗喩をつくる
夏はもう二度とこないと思い込みながら生きていくような感傷
もう最後になるとわかっている部屋を出る時の予行演習をする

TRPGのかなりおもしろいセッションをやっているので今日の短歌はよく書けたような気がするが、しかしよく書けたということは頭がパキッとはっきりしているということであり、眠れないのであった。

逃げ切れるなら

ざわめきのない町に住むいつまでも出口がなくてとりとめもない
魂という入れ物に種類あり今日は丸いのひとつ転がす
わたしいつか幸せになる方法を果実に成らせて置いておくから
向日葵が疲れたように俯いている夏だったむせかえるまで
逃げ切れるつもりだったらゼラチンで固めて出られなくしておこう
わたしたち腐乱死体になっていたはずのベッドで内臓絡め
最奥に黄色い印がつけられて気持ちいい体験型ホラー
夕焼けに似ている蟹の赤色を割ってしまったおしまいが来た
でもいつか出ていくだろうと思いながら片付けておくパーティーの跡
粘膜を触れ合わせては人間の中は全部が濡れているのか

4年前のTRPGシナリオを直して遊んでいるのですが、思ったより全然面白く、よくできていてびっくりした。忘れていた理想を取り戻したようで嬉しかった。でも文章はめちゃくちゃでした。

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