オッドタクシー/大門兄弟/作中時間軸
宇宙にいるらしい。
ぺらっと敷かれたブルーシートのように、宇宙に屋上が浮かんでいる。おれは詰め襟を着た十四歳の姿をしている。だからここは中学校の屋上なのだろう。
遠くに校門が見える。弟が立っている。おれがここにいることには気づいていない。
いつごろからおれたちは、別々の人間になったんだったか。
あるいは弟は、いまでもおれを、自分とひとつながりの何かだろうと思っているのかもしれない。おれが言っていることは全部本当であると、全部信じ込んでいるのなら――いるはずなのだが、そうだとすれば、あいつの頭の中にはもう全然おれとは違うおれがいる。あいつの指の先に繋がっている、ひとつながりのおれは、実在のおれとはもはや無関係の誰かだった。
それならおれだって、架空のおまえを見ていてもいいだろう。
宇宙にいるらしい。が、もちろんこれは夢だ。だと思う。全ての計画からも繋がりからも人生からも放り出されて、十四歳で屋上にいて、これが現実なら、よく言っても地獄だ。
十四歳のとき、傍らの肉体が、別の肉体だと考えたことがある。
それまでも知っていたのに、はっきり考えたことがある。
相手はまるっきりおれではなくて、おれではないからおれは、欲情をしていると気づいた。
飛び立った飛行機の燃料が、空港に戻るには足りなくなったとき、あとは墜落するしかなくなるらしい。それまでは戻れたはずの場所、既定ルート、それを逸れて、落ちていくしかなくなるらしい。おれはおれを見つけてほしかった。たぶん。おれはおれがおまえではないとおまえに気づいてほしかった。たぶん。
宇宙にいる。十四歳だ。遠くに弟が見える。校門を抜けて、遠ざかっていく。振り返らない。おれはその隣に、おれがいるような気がする。おまえの頭の中で飼い慣らされた、善なるおれがいるような気がして、目をこらす。
それならおれの傍らには、悪なるおまえがいるのだろう。
それはおまえに全然似合わなかったから、おれはひとりでウケて、そしておれの考えたおれの片割れが、階段を上がってくる音が聞こえる、そんなふりをしてフェンスに指をかけた。
おれの考えたおまえは、おれのことを全て知っていて、ひとつひとつ断罪してくれる。おれの嘘も罪も欲情もひとつひとつあげつらって、おれを宇宙の果てに追放してくれる。
具体性のないイメージだった。
――おれには、おまえの虚像をつくる、才能がない。
だからおれは、おれのためのおまえを作り出して断罪されることもできないまま、フェンスを乗り越えようとしてそれもできないまま、宇宙の中に、えいえんの責め苦にも似た無の中に、飛び込んでいくこともできないまま、宙を見上げている。
空を何かが横切る。おしまいが来た気がして、目を閉じる。