外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

竜を殺す方法

オッドタクシー/大門兄弟/自殺の話

 

小説を書いている。語彙力がないのでうまく書けないけど楽しい。幽霊の話だ。正確には、生き霊の話。
舞台は異世界ファンタジーで、頭がよくてしっかり者の男の後ろに、生き霊になった男の弟がついているという内容である。弟は遠くで死にかけていて、でもそれは遠くでの出来事なので、男は弟が死にかけていることを知らない。
男は弟の助力で、いろんなことを成し遂げる。盗賊を倒したり、竜を殺したり、お姫様を救い出したり。そして遠くで、弟はずっと死にかけている。
見つけて欲しかったのかもしれない。
ずっと、見つけて欲しかったのかもしれないな。
何を?
小説の外側の人生は、幸福の多寡もなく続いていく。実際の兄ちゃんもまた、おれが死にかけていることを知らない。少しずつずっと、死にかけているということを知らないまま、頬杖をついてテレビに向かってぼやいている。
葬り去ろうと思った。大事なもの、特別なもの、必要なもの。善悪二元論で片付くような、単純な世界観。そんなものは多分この世のどこにもない。
兄を愛することを一番にした時点で――だれかを愛することが一番になる時点で、善悪二元論は果たされない。
兄が悪だと気づく前に書き始めた小説の続きをまだ書いている。今となっては示唆的だと思う。おれはずっと死にかけていて、だから兄ちゃんのそばにいられる。兄ちゃんは死にかけたおれだけをそばに置けて、だからおれたちはあの頃、二人組だった。
いてもいなくても同じおれだけが、兄ちゃんのそばにいられた。
小説は書き上がらない。小説の中でおれは、兄ちゃんに見つけ出して欲しいと思うようになったので。小説の中の死にかけた弟が、兄に見つけ出してもらえたらいいと、願ってしまうようになったので、小説を書き上げる前に、やるべきことがあった。
そして今おれは、幽霊である。
兄ちゃんが、おれの小説をめくって、読んでいる。おれはそれを、兄ちゃんの背中のうしろから見ている。兄ちゃんはおれの傍らに座っている。おれは病院のベッドによこたわって、管に繋がれていて、眠っているように見える。
小説みたいにうまくはいかない。おれは兄ちゃんに何をしてあげることもできない。ほんとうは竜を殺す方法も知らない。兄ちゃんは小説を読んでいると思うけど、ひっきりなしに肩を揺らしているので集中して読めてはいないと思う。
「なんでだよ」
だってずっと、死んでるみたいなものだったしさ。
「おれの言うことを聞いてればよかったのに」
だってそれって、死んでるみたいなものだったしさ。
幽霊は不便だ。涙を拭ってやることもできない。

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