神社に七夕飾りが置かれていた。
引っ越して転校した先で、友達がいなかった。でも、友達らしい友達はずっといなかったといえばそうかもしれない。
一番近くに兄を置く。そしてその外側にそれ以外全てがいて、それはどれも、全部が友達と言えるような相手ではないのかもしれなかった。自分と世界の間に、兄というベールがかかっている。それはもしかしたら、守られているという意味だったのかもしれないし、別の意味があったのかもしれない。
少なくともそのときは、小学校一年生のそのときには、わかっていなくてそれをした。
七夕飾りは、兄ちゃんが先に書いて、兄が先に吊した。そしてそのまま、おれを置いてどこかに行ってしまった。おれはまだ書いていた。というか、書きあぐねて、悩んでいて、それで兄ちゃんはあきれて、そのときどこか別のところにいたのだと思う。
色とりどりの飾りと、知らない声に囲まれて、長机に身を乗り出して、考えていた。
死のことを考えていた。多分。いろんなことを考えていて、でもその核に死のことがあった。多分。そしてそれは、こんなところ、誰にでも見えるところに吊しておくことはできないことだったので、大切なことだったので、おれは書き終わったあと、自分の短冊をポケットに入れた。
だからその願いは神様の力では叶わないのだ。
兄ちゃんが吊した短冊を、慎重に外した。誰にも見られないようにはずそうとして、心臓がばくばく音を立てた。外した短冊、兄ちゃんの名前のついた短冊は、ちぎって川に流した。みずいろの折り紙はしずかに水の中を流れていった。
その短冊には、大人になっても一緒にいられますように、と書かれていた。神様の力で一緒にいられるのは嫌だったから、兄ちゃんの短冊を、捨てた。そして誰にも触られたくなかったから。兄ちゃんの心の中を触ってほしくなかったから、おれはそれをちぎって捨てた。これはおれの秘密。
おれはいまでも古い短冊を持っている。いろんな経緯があってまだ捨てずに持っているし、今となっては本気で祈ってもいない。というか願っても仕方のないことだと思うけれど、今でも真剣に信じたいと思っている。というか、これは信じるとか祈るとかじゃなくて、単なる事実、そう、多分、そうだと思う。
あと、これも大事なことだけど、これをあの日、というかそれ以降もずっと、兄ちゃんが見る機会がなかったのは、よかったことだと思っている。
握りしめたマジックで書かれた下手な文字。
兄ちゃんが死にませんように。