外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

ものすごく頭の悪い警官

オッドタクシー/大門兄弟/警察をやめてる

 

 

気づくはずだと思った。そのメールアドレスを知っているのは、おれだけだったからだ。
おれの弟はバカなのだが、実際は頭は悪くなく、おれがせっせとおまえはバカだと言い募ったので実際に自分がバカなのだと思うようになったという、まあ、そういう意味では結果的にバカだし経緯もバカといえばバカだ。でも、実際はバカではない。
自動生成したランダムな文字列でできたメールアドレスから、URLだけを記載したメールを送る。送り先は、弟が、ウェブ登録を必要とするときのために用意した、というか、おれがセットアップをしてやったメールアドレスだった。スマートフォンアプリとか、ネット通販とか、そういう用事があるときに使うための、誰も知らないメールアドレスで、あの頃おれの弟は、こんなことさえひとりではできないようになっていた。
いまおれの弟は、かつて誇りとしていた警官の仕事を辞めて、離島で、便利屋まがいの生活を営んでいるらしい。
そこにいたるまでの経緯には、たぶん、あいつの隣におれがいないことが関わっている。
今でも弟は、とてつもなくバカなのだろう。たぶん。
メールを送信して、そうして想像する。弟は、自分の兄からのメールだと確信するはずだ。他にこのアドレスを知っている者がいるはずがないということを、弟も知っているからだ。そしてURLを迷いなく踏むはずだ。ひとつにはあいつがバカだからだし、もうひとつには、おれから送られてきたメールだからだ。
心配ない。URLの先は、おれの作ったゲームにつながっている。異常な難易度のアクションゲームだが、弟はこういうゲームが子供の頃から得意だった。主人公はものすごく頭の悪い警官で、銃を撃ったり、落ちている物を拾って食べたりして、アクションをこなしていく。ものすごく頭の悪い警官という概念が、何を指すのかわからないはずはなかった。別に、落ちている物を食べたことはなかったと思うが。
おれは、弟は間違いなくそのURLを開くはずだと思ったし、実際にアクセス履歴があって、それは離島からだった。
弟は、とおれは思う。いまでもバカかもしれないが、おれの知っているバカさではないかもしれない。こういうとき、というのはつまり途方に暮れたりわけがわからなかったりしたとき、あいつがどういう顔をするのか、おれは正直よく知らない。ましてやおれがあいつの隣を離れて、あいつはたぶんもう善悪の話をしなくなり、警官でもなくなり、多分かつてほど頭が悪くもなくなった今となっては、あいつがこのメッセージをどう受け取るのか、おれには正直、全然、わからない。
わかっているのは、あいつはゲームをクリアできる、ということだけだった。

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