外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

世界の終わりの話 第1話

佐藤さんは街から子供がいなくなった日、草がぼうぼう生えた三メートル角の空き地で無いはずのものをなくしたような気がした話をしてください。

東京に異変が起こる。
いくらかのニュースが報道されて、普通の失踪事件だと思われていた。もちろんかなしみと動揺をともなってはいるが、でも、よくある事件だと。でも、子供という子供すべてが消え失せたことで、それが失踪事件なんかではないことがわかった。
次に起こったのは、大人が子供に変貌するという事件、いや、怪異だった。
僕はいま、毎日少しずつ、小さくなっている。僕にとってそれは恐ろしいことだった。僕がかつて、父親とともに旅行をして父親のために選択をしていた頃の姿に、日が経てば経つほど、近づいていくということだったから。
街はパニックに陥っていて、東京が原因だろうという風説が流れて、脱出したがっている人間ばかりが跋扈していた。
僕は田中に会いに行った。
田中は、田中の家の近くにある空き地で、何かを探しているようだった。
「ここ神社、あるって話じゃなかったっけ」
「いやそれが、どうも、間違いっぽくて、神社があったって話は。あったことって実はないらしい。でも、あったって説が強くなっちゃって、ここは誰もいじれないらしい」
「いない神」
「最初からいなかった神。神社がどうかした?」
「変なことになったから、祈ってみようかと思って。神って俺、嫌いじゃない」
「信じてるってこと?」
「いや……」
田中は少し笑い、その表情は、子供の姿に変貌しつつある顔の中でゆるやかに浮いて大人びていた。
「いなくてもいいや。いてもいなくても同じだろう。そもそも、ここが空き地のままに残っているってことそれ自体が、神を皆で信じたってことだから、それっているのと同然だよ」
僕はうっすらと具合が悪くなりながら田中の話を聞いていた。神、というワードは、僕にとってあまりよくなかった。僕に選択させることを、父親は昔、神頼み、と呼んでいた。そうではないものを神と呼ぶこと、それに期待を掛けること、に、僕の子供時代は関わりすぎていた。手のひらの内側に嫌な汗が溜まって、この話やめようよと僕は言いたかった。
しかし田中は続けた。
「こんな変な状態、いっそ、架空の神にしか、救えないんじゃないか」
僕はそれになれる。もう、なったことがある。
喉がからからに渇く。あとはもう、じゃあ、それは僕だね、と、宣言するだけでいい。ここで信じられている神って、それは僕のことだね。信じられていたという、実績が、あるわけだし、たったそれだけでいいんだったら。

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