外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

台風の話

田中さんは雨が十日続いた翌日の朝、青銅の雨どいのそばで結局見つけられなかったものの話をしてください。

長すぎる台風が日本をゆっくり北上していた。俺の会社はこういうとき、在宅勤務を推奨するタイプで、まあ、いい会社だと思う。自宅のPCの前に座ってインスタントコーヒーを飲んでいるのは気楽でいいが、俺は出社の方が話が早くて好きだ。台風には早く出ていってもらいたい。
おまえはどう、と連絡を取ったら、こういう特殊な環境の時にしか得られない情報がある、という返答だった。
「飛んできた看板とかで頭打って死なないように気をつけて」
『やりそう~。僕の人生ってそのようにして終わるんだろうな』
「終わらないで」
探偵なんて危ない仕事は辞めて欲しい、という気分に、これまでなったことはなかったのだが、急にそう思って、自分の給与でひとを養うことになるとしたらどう回したらいいんだろうな、と急に計算していた。別に、そういう間柄でもないのだが。
「今何してる?」
『探し物』
「そんなの、今しなくてもいい気がするけど」
『色々あるんだよ。えーっと雨樋雨樋」
「これって繋いでていいやつ? 情報漏洩とかになるんじゃないのか」
『まあ、別に……。場所はあってる、位置もあってる、あーっハズレだ! ここじゃない! クソッ』
「お疲れさま」
何をどこで探していて何をやっているのか全然わからないが、十一日目の雨に降り込まれた東京で、いやそもそも東京にいるのかすらわからないか、佐藤は何かを探し回っているらしい。
半分濡れて、あるいは、全部濡れて。
「佐藤」
『うん。繋がってる。大丈夫』
「いや……」
事務所に帰る前にうちに寄ってもいいし、仕事の帰りにうちに寄ってもいい、何時でも、俺は今日はずっと在宅でここにいるので、ということを、言おうかどうしようか、迷っている。別にそんな間柄ではないといえばそうだが、仕事をしているところを通話で繋いでおきたいくらいに安全が心配と思っている、というのは、全然そういう間柄なのかも知れなかった。
「俺も佐藤に頼みがあるんだけど」
『何? 仕事? なくしものを見つけるのは得意だよ』
「見つかってないけど……」
『ここがハズレってことは、次が合ってるから、見つかるんだよ。大丈夫なんだから』
「そうじゃなくて。何か食べるものを買ってうちに寄って欲しい。金は払うから。佐藤のも奢るから」
『ああそういう。台風で出かけたくないもんな』
まあ、そういうことでいいよ。

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