外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

ペーパーフラワーの話

田中さんは冷たい風の吹くころ、造花で飾られた部屋で足りないものをごまかした話をしてください。

いちめんに咲いている――ということになっている――花は紙でできた、めくってふわふわにつくる、ありがちなやつで、折り紙を切って作ったチェーンで飾られている。誰もいない、早朝の教室で、俺はその花のひとつをそっと外す。
数時間後に文化祭が始まるので、学校中、こういう、紙でできた簡単な飾りと、あとはせいぜいペンキや紙粘土で彩られている。
俺にとってその花は、それなりに意味を持っていて、どうしても手に入れなくてはならないようなものでは別になくて、でも、欲しいような気がして、気になって、朝四時に起きて、五時の、しらじらと冷たい風を抜けて、学校にやってきた。誰もいなくて静かなのに、飾りばかりが騒がしくて変で、異世界に迷い込んだようだと思った。
佐藤とすごく久しぶりに喋ったのだった。
佐藤とは小三以降、ずっと別のクラスで、だから自然と、話すことはなくなっていた。そもそも、別に仲の良い友達とかですらなかった。ちょっとだけ接点があって、まあまあ大きく俺の感情が動いて、俺の人生において重要な人物になってしまったことを、佐藤は多分、知らなかった。
だから、花一個足りなくて、ととなりのクラスに相談に行ったとき、佐藤がいたのは偶然だったし、佐藤が、「ああ、じゃあ、これあげる」と言って、手に持っていた花を差し出してきたのも、偶然だった。俺が田中であるということ、かつての因縁、などを、佐藤がその瞬間意識していたかどうかは、わからないし、多分、していなかったと思う。
ひとつ足りなくてわざわざ融通してもらった花なのに、俺は今、それをそっと取り外して、鞄の中に仕舞おうとしている。ぐしゃぐしゃに潰れてしまわないように、わざわざ家を探して、菓子の缶を持ってきた。
手に入れたから何だっていうんだろう。
しかしどうしても欲しくて、どうして欲しいのかわからないがどうしても欲しかったので、俺はそれを、缶のなかに、そして鞄の中に、仕舞って、家で作って来たティッシュの花をかわりにつけて埋めた。そうしながらずっと、俺の人生って永遠にこれが繰り返される、という予知のような感覚を抱いた。俺の人生って欲しいものがあってそのために誤魔化したりあがいたりし続ける。これからも、きっと、ずっと。

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