外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

王様の話

田中さんは地球の自転が止まった日、池のそばに立つ東屋でブルーブラッドという語の意味についての話をしてください。

「田中のことが好きだと思う」
こういうとき、全てが止まる、というのは、本当だったのだと思った。
会社に、穏やかに復帰して、穏やかな生活を送っている、という話のついでに、合コンに誘われた、と言った。合コンというか、多分合コンみたいな? やつだと思う、という話をした。恋愛が目的のやつというより、他業種と関わって喋った方がいい的なやつだったのだが、佐藤は、「合コンね! いいね! よかったなー! 田中が元気になって!!!」という、妙に明るい、異常に明るいと言ってもいい、返事を寄越していた。まあ、そうかもしれない、そうではなさがあまりにも過激だったので、そういうリアクションが発生しても、まあ、普通かもしれない。
佐藤が作った町、の、池のそばで会っていた。俺は相変わらずソーシャルゲームは好きではなく、好きではないということを佐藤も知っているため、「いやでもこれ、僕と通信するだけだから……」と歯切れ悪く誘って来た。通信機能を使う1on1のゲームは、まあ、ソシャゲには含まれない、かも、しれない。
池のそばの東屋にアバターを座らせて、仮想世界で喋っている。佐藤の作った世界だから佐藤はこの世界の王なのに、しどろもどろにチャットを飛ばして来ていた。
地球の自転がいったん止まってゆっくり動き出すところだったので俺は頭が全然回らなくなっており、ブルーブラッドという単語について急に考えていた。貴族は日焼けしないから血が青く見える、ので、貴族のことをブルーブラッドと呼ぶ。でもこの国をひとつひとつ建築した佐藤は、仮想世界においてさえ、日焼けをしているような気がする。
王様だと思うんだけど、と急に言ったら変だろうな。
おまえこの国の王様なんだから、弱気な調子で、俺のことを好きだとか言ってないで、俺に好きになるようにと命令しても、別にいいんだよな。
「……『思う』?」
「あの、それは」
チャットが細かく送られてくる。普段の佐藤よりしどろもどろに見える。
「合コン行かないで欲しいという」
「なぜかというと」
「田中に好きな人ができたら」
「困る」
そこで佐藤は沈黙した。現実の俺はベッドに倒れて画面を視界の端におさめたまま無呼吸になっていたが、ゲームの中のドット絵の俺は、背筋を伸ばして東屋のベンチに座って、ただ、佐藤を見ていた。落ち着き払っているように見えた。佐藤も多分、俺が落ち着き払っていると思っているのだろう。実際は地球の自転が止まったのに。
『佐藤さんがログアウトしました』
急に目の前から佐藤(ドット絵の)が消えて、俺はようやく、息をついた。向こうも多分、似たような状況だろうと思った。田中さんもログアウトしました。地球は普通に回っている。多分。
心臓が爆音で鳴っている。地球とは関係のない、俺だけの現象だと思う。多分。

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