外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

宗教法人の話

田中さんは蒸し暑い日、頭上にいろとりどりの洗濯物が干されていた路地で銀の匙をくわえて生まれてきたきみについての話をしてください。

まあでも僕ってこうなんだよ、と、当たり前のことのように佐藤は言った。そこは南国の路地で、洗濯物が頭上にはためく中に出店が並んでいて、そして佐藤はさっきから、もっと食うかとか足りているかとか、そういうことを(多分)言われ続けて食べ物を目の前に並べられている。笑って、異国の言葉をいくつか舌っ足らずに操って、そのこと自体が周りに面白がられていて、ますます色々なものが佐藤の前に並ぶ。
マレビト信仰、とか、そういうことを俺は思いながら、佐藤が貰った菓子を割って食べている。たしかに佐藤は、ここに来る前、僕と外国旅行をすると面白いよ、外国語もちょっとくらいならわかるし、と言いはした。が、こういう感じだったか。
「特殊すぎる」
「僕って割と特殊な体質で……」
「体質とかでは、ないだろ」
「そうかなあ。体質だよ」
言い張るが、これが体質というか、天賦の才だとしたら、佐藤は宗教をやったほうがいい。というか天賦の才じゃなくても素でこれができるのなら、一緒に宗教を立ち上げた方がいいのかもしれない。これって「佐藤の感じが良くて誰からも可愛がられるから飯くらい奢ってもらえる」の、度を超している。
俺は物語に詳しいし、いいのかもな。宗教って大抵、すごく基礎的な物語で構築されていて、みんな物語を信じたいのだと、どこかで聞いたことがある。ゲームってそういう意味では、強固な物語で、信じるに値する時間を提供するものだ。俺たちは立派な宗教法人になれると思う。
ともあれ佐藤は、ちょっと困ってしまうくらいの「供物」を捧げられたせいで、なんだか大黒天のように徳が高そうに見えたし、いつも通りの佐藤とはちょっと違って見えたし、なるほどな、信仰って周囲の人間が作り上げていくものなんだなと思った。皆が信じてるから(皆が面白がってやっているから)プレイするゲームのほうがバズるわけだし。
「なんか悪いこと考えてない?」
佐藤が、もういいよと笑って断るように笑って手を振ったあと、俺を振り返って、困ったように言う。
「考えてる」
「僕をお金にするのは難しいと思うけど。変な物も引っかけるし……」
「というか誰かがマネジメントした方がむしろいい。変な物は弾けばいいんだから」
「でも田中はスイッチが入るとコントロールできなくなるタイプだからなあ。周りが見えている人をチームに入れないと……」
「意外と乗り気」
「いや、やらないよ。そもそも何をどうする気なんだよ」
神様になってください。簡単ですよ。

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