田中さんは渇水の夏に、アンティークのパイプを扱う店であのときテレビの音が背景になったことの話をしてください。
喉が渇いて、全部の音が遠くなった。
佐藤は俺を好きなのだと思った。
壁に掛かったアンティークはどれも売り物であると語る店主が、しかしまさか買うわけがないだろうという顔で、佐藤に色々と触らせてやっていた。いや、佐藤は、こいつなら買うかもな、と思われていたかもしれない。今べつに佐藤は普通に全然金に困っているらしいのだが、生まれてこの方金に不自由したことがなさそうなおっとりした風貌なので、こういう、ちょっといいものを扱う店に行けば行くほど、金持ちのように扱われる。そういうところを何度か見たことがある。
俺は佐藤のことが好きで、だいぶまえからそうで、そういう話にしてしまうなら出会ったときからずっと好きだった。あの消しゴム集めの頃から、佐藤のことが気に掛かって仕方なかったということを、そういう話に仕立ててしまうのは簡単なくらい、強い感情をずっと、寄せていたと思う。実際に仕立ててしまうかどうか、どこからが恋愛感情だったのかを考える必要があるかないかは、さておいて。
佐藤は笑って、「でもこういうの、僕はちょっと似合いすぎてだめだな」と、おどけた口調で言い、金がないとも、ほしくないとも言わず、ただやわらかい口調で告げた。たしかに、大正時代の金満家みたいに見えるとは思った。
偶然入った喫茶店で、こういう形で佐藤が話しかけられるのを見るのも、もう幾度目かで、佐藤はパイプから喫煙習慣について訊ねられる流れの会話を、ゆっくり軌道修正して、カップもアンティーク、という話に切り替えていた。俺は、そのとき急に、田中は酒も煙草もやらないほうがいい、と佐藤がある日言ったことを思いだした。ソシャゲもこれ以上やらない方がいいし、酒も煙草も、依存性が高いものは、やらない方がいい、と。
この店に入ったことを後悔しているはずだとも思った。佐藤は煙草の話を、俺にしないようにしている、と思った。関心を持たないように、きっかけを作らないように、している、と思った。俺を守っている、と思って、その瞬間、全ての音が遠ざかって、喉が渇いて、心臓が高鳴って全身が熱くなった。
佐藤は俺が好きだから、俺を守ろうとしているのだと、急に気付いてしまった。
どうしよう。