外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

からあげ

オッドタクシー/大門兄弟/グロ注意

 

弟の腹に穴が開いていて、おとうさんは「晩飯はからあげだぞ」と言う。
言いながら、弟の腹からキッチンばさみで切り取った肉を取り出しては、ビニール袋に詰め込んでいる。袋の中には調味料が入っていて、醤油の匂いが部屋いっぱいに立ちこめている。鍋の中からはぱちぱちと油が跳ねる音がする。
身動きができないままそれを見ている。
おかあさんが油の様子を見ながら、おれと弟の名前を呼び、「おとうさんのからあげは美味しいから、楽しみだね」と言う。
弟は、ぼんやりとした目つきで腹を見おろしている。眼鏡が鼻からすこしズレていて、何も見ていないし何も考えていないように見える。弟は何歳くらいからバカになっちゃったんだっけ、とおれは思う。怖くて、関係ないことを考えている。
からあげなんて食べたくない、と、おれはようやく言う。弟の腹の肉でできたからあげなんて食べたくない。でも両親は、「そんなことないだろ」「からあげ好きだったでしょう、どうしたの」と言う。
どうして弟をからあげにしているのだろう。どうしておれではないのだろう。おれは父親を止めることができないまま、ぼくもからあげになるの、と聞いた。
「からあげになるのは幸志郎だけだよ。幸志郎はバカだから、からあげになってもわからないだろう。だから、幸志郎にとって、幸せなことなんだ」
子供の頃、ずっと小さかった頃、おれの弟はバカではなかった。おれより賢かったと行ってもよかった。弟は数の計算が得意だった。弟はレゴブロックを組み立てるのも得意だった。弟がバカになったのは、おれが、バカであってほしいと願ったからだった。
バカだからからあげになるのだとしたら、
「堅志郎が望んだことだよね?」
おとうさんが言う。弟の肉が醤油まみれになって、粉をはたかれて、それから油の中に落ちていく。
「おとうさんとおかあさんが死んだのをなかったことにするために必要なんだ。幸志郎は、良い子だから我慢できるよね?」
弟は返事をしない。眼鏡の奥の目はぼんやりしている。必要なものがなくなったからだとおれは思って、焦って弟の腹だった場所、いまはただの空白になってしまったそこに指をさしいれて、そのままそこに体をねじこもうとした。
触れたところからどろどろに溶けて、おれは悲鳴をあげた。弟を抱き寄せようとして、それもどろどろになっていると気づいた。なくなっていくと思った。油が耳元でぱちぱちとはじけている。
誰かが言った。
「あーあ。なくなっちゃった。でも、生まれ直せばいいよね」

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