手紙を書くよ。
でも送らないでおく。面会には応じてもらえないし、おれのことはもう、いらないのかもしれないから。おれはずっと兄ちゃんのモノだったので、隣にいられないなら、持っていられないなら、意味ないのかも、とも思ってる。
飛行機が飛んでいておれたちはそろそろ終わりになるのだと思う。おれは最後まで正義の味方でいたいので、最後まで一般市民を避難させてる。自衛隊が来てくれるという話もあったはずだけどあれってどうなったんだろう。もう指揮系統も死んでしまったので個人で動くしかなくなっちゃったんだ。だれが健康な体を持っていて、感染源にならずに済むのか、豹変せずに済むのか、判断できる人は、少なくとも東京にはもう、いないらしい。
おれもいろんな人と話したから感染してるのかもしれない。このまま、外に出ない方がたぶん、いいと思う。
刑務所は離れてたから、受刑者は避難が間に合ったって聞いた。本当だといいな。
もし東京に戻ってくることがあったら、たぶん兄ちゃんは、宿舎に来ると思う。だから手紙を残しておいた。手紙って紙だから、爆破されたら燃えて消えるから、兄ちゃんは最初の手がかりさえ手に入られないのかもしれないんだけど、別に全部が上手に繋がるパズルとかじゃないから。最初の手紙が見つからなかったら、そもそも手紙を探しすらしないかもしれないけどさ。
考えてたんだけど、兄ちゃんの隣にいたあいだ、おれはずっと、モノだった、ので、兄ちゃんに大事にされてたと思ったのは、所有されてた、ってことだったのかもな。でも、おれたちにこれからがあるなら、違うのもできるのかもしれないと思うよ。
兄ちゃんがおれの手紙を探すなら、それはおれのことをモノだと持ってるからではないんじゃないかと思うよ。どうだろうな。わかんないな。でも一生懸命おれの手紙を探しておれのかけらでも手元に取り戻したいと思ってくれるなら、それってそういう愛かもなとも思うんだよな。手紙ってモノだけど、ただの紙でもあって、価値ないっちゃそうなんだけど、
爆撃が始まった。おれはぎりぎりまで残ろうと思ってる。最後に手紙を書くよ。あんまり時間がないから、あんまりたくさんは書けないけど、書けるところだけでも書くよ。
おれは兄ちゃんを愛していたと思っていたけど、それって違ったかもなと思う。所有されてただけかもなと思う。所有されて独占されて、何も考えないモノになってただけかもなと思う。
だからおれがここでこうやって、自分で考えて留まったことは、おれにとっては良いことだと思う。兄ちゃんも、おれにとって良いことがおれに起こったということを、喜んでくれたらいいな、と思ってる。
手紙って紙だから、どっかに挟まって、かけらだけでも見つかるかもしれない。
兄ちゃんは探してくれると思う。