外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

夜の薄い光

オッドタクシー/大門兄弟/原作時間軸(ネタバレあり)

 

時々甘美な夢を見る。
おれは犯罪の片棒をかついでいるのだが、べつにたいしたことはやっていない。警察組織に所属する人間として百%まずいことをやっているのは事実なので、べつにたいしたことはやっていないという自認自体がやばいといえばそうで、まあ、やばくないと思ってなければずるずると汚職なんてやってらんないだろう。
ぽっかりと麻痺した感覚の中、おれは深夜に、宿舎の同室のベッドで眠る弟の顔を見下ろしている。
今すぐ弟を殺して、自首しよう、と思う。
もしかしたら精神状態が良くないからこんなことを考えるのかもしれなかったが、おれがここで弟を殺したら、ここまでにやったことが全部、弟を殺した、ということで書き換えられるような気がした。おれは自分がやった犯罪の全体より、それを弟に黙っているという事実に、だんだんやられつつあった。
夜には段階があって、もっとも深い時間を過ぎた四時は暗い中にも、うっすらと刷いた光が混ざっている。そのごく薄い光が、おれを断罪していると思った。それは弟に似ていた。明確な光ではないのにおれを常にうっすらと照らしていておれは自分がグチャグチャだと思う。
手を伸ばして首を押さえ込んだら、弟は抵抗するだろうか。
どんなにバカでも、殺されそうになっていると気づいたら、抵抗をするだろうか?
おれは弟を苦しめないために殺そうとしているのだから、でも、気付かれたら意味ないなと思う。最期の記憶が、大好きな兄ちゃんに殺された、になるのは不憫だなと思う。だから目が覚めない方法を考えなくてはならず、夜の終わりのこんな時間に首を絞めるのは得策ではない。
犯罪なんてどうでもいい。弟をひとつも傷つけないまま、おれのとなりに置くことはもう、できなくなってしまった、そのことが苦しい。
しかしおれにはもう、苦しむ権利もないのだろう。
ある程度のスリルとある程度の楽しさを見いだしながら、ずるずると悪い方へ転がっている。おれは弟が大事で、他に大事なものはこれといってなく、それより大事なものを持ちたくもなかった。にもかかわらず、弟と過ごすほかに楽しいことがあって、それ自体が裏切りだと思った。おれはたしかに、罪を楽しんでいた。それは事実だった。
このまま、弟がおれを愛していて、おれがそれなりにすべてを楽しんでいて、そのままで、弟がぽんと世界の外側にログアウトしてしまえば、傷つけることはないのだと思ったから、今すぐ殺したかった。
夜から朝に切り替わる浅い光がカーテンの隙間から来る頃、おれは弟を見おろして、ベッドの傍らに立っている。
伸ばした指は首ではなく頬を撫で、弟はおれの前で薄く、目を開く。
弟はぼんやりとおれを見上げて笑い、兄ちゃん、と呼んだ。

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