その中学の同級生というのが実際存在したのかどうかも、今となってはよくわからない。
東京から始まって家々を訪ね歩き、神社仏閣に足を踏み入れ、怪しげな組織に潜入し、必死で探し歩いていたものが、なんだったのかも、今となってはどうでもいい。
森の中に、見たことのあるキーホルダーが落ちていた。
脳みそがぐらぐらに沸いて思考が止まった。ここにいるのだと確信した。あとから考えれば、そのキーホルダーを持っているのは兄ちゃん以外にもたくさんいたはずで、ここに兄ちゃんがいるのだと思い込んだのは、軽率な判断だったのかもしれない。けれど、他に手がかりがないまま何年も過ぎていて、おれはずっと、手がかりを求めていたので、それに縋った。
警察を辞めて仕事がなかったところに、人探しを頼まれた。頼んできたのは中学の同級生で、別に仲が良かったわけではなかった――というか、おれたちに、仲の良い同級生がいたことはなかった。おれが警察を辞めたとどこで聞きつけたのかも、よく知らない。暇だったし、人助けになるなら別に手伝ってもいいと思った。こんなに遠くにくることになるなんて思っていなかった。
そこから紆余曲折あって、おれは森の中を歩いている。
食べ物はとうに尽きた。水を飲んだら下痢をした。立ち上がって動いているのは執念としか言い様がない。やみくもに動いて見つかるとも思えない。そう、頭のどこかで理解しているのに、止まったら最後と思って、おれはただひたすら歩いている。
兄ちゃんがふっつりといなくなって、それを追うべきではないと、探すべきではないとずっと思っていた。
兄ちゃんが消えたいと思っているのなら、おれは兄ちゃんに消えさせてやるべきだと、ずっと思っていた。
だからこの顛末を、兄ちゃんは望んでいなかったと思う。
そう知ったうえで、おれはただ、おれが望んで、ここにいる。
最初から、なにひとつ理由なんてなかったのかもしれないとも思う。同級生に頼まれたふりをしていたのかもしれず、行方不明者捜索の依頼なんてされていなくて、他人のふりをして探し回るおれを、みな憐れんでいただけかもしれない。おまえが探している男はおまえにそっくりな、おまえの一卵性双生児だと、誰も教えなかっただけかもしれない。
あるいは兄ちゃんがここにいるということすら、道程すら、おれが思い込んでそう進んだだけの、誤ったものなのかもしれない。おれはただ、歩みたい道を歩みながら、正しい方向に進んでいると、思いたかっただけなのかもしれない。
もうどうでもよかった。おれはキーホルダーを握りしめて、ただ一心に探している。
おれは獣のように叫びながら、森の中にいる。