外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

両親

ゆっくりと満潮が来る秋の日に満ち足りてゆく涙の海だ

システムがエラー音だけ吐き出して修繕技術を誰も持たない

「刺身を食えよ」無音。「愛なき世界で生きていくのか」

土管やら掘っ立て小屋やら川の下やらで丸まる猫の人生

「おまえむかし、おいらが飼ってたねこちゃんを、いじめたことがあったじゃないか」

「おまえいま、いじめられてるねこちゃんの顔をしている」海辺のふたり

超えてゆけ無数の死者がばらばらと自分と同じ顔をした日を

歴史上あらゆるすべての傍らにおまえの名前を置くからおいで

愛という言葉の定義を見つめてはどろりとこぼれた嘔吐の甘さ

水のない世界で人間は生きてゆけない単なる事実

可燃性の液体瓶からだらだらとこぼれていった血の色の嘘

血の色は神とあの子と俺のいる世界に俺が不要と告げる

エラー音いずれ世界の外側であらゆる全てにキスを送ろう

血と肉と声と知らない味噌汁のにおいを嗅いだ「おかえりなさい」

人間の七十パーセントの水分を得られないまま絡んでる指

「干からびて生きていこうよ、いつまでも生まれた罪を手に絡ませて」

欠けている部分がこぼした涙から生まれた少女と水辺で眠る

「川の字で寝てるよ」「家族みたい」「あらゆる全てが涙の海さ」

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