外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

実在 Ⅳ バラ色の日々 『缶コーヒー』

「そんなことすると思った?夜更けにはさよならをしておしまいなのに」

赤かった糸が黄ばんでいくまでの日々があんたとおれであります

ゆめをみたままでおまえを抱いていて世界の全てが遠くてならぬ

ざくざくのなかであんたは笑ってて痛覚遮断 感情遮断

おぞましく娼婦に似てる目をしてた おれの おれのためだけの舌

ろうそくを立てては溶かす間には夜は明けない夜は明けない

問題はないよ何にも 浮上する闇夜の底はさらえておいた

心臓が生身であってぴりぴりがやってきたから慌てて蓋を

地獄から梨が来ている おいしくてかなしいかなしい梨が来ている

パラレルな夢をみていた悪かった、おれが、悪くて、あんたが、いない

「しらないよ」全人類に花束を渡せる機会を逸したことも

洋梨にわずかに残るじゃりじゃりが心臓型のささやかな穴

突然のニトロを喉に注がれた ことをあんたは忘れたろうか

吸うことは当分はない、と、思う、あんたが隣でひどくけむたい

「好きでいる?」「いますよ」「いつまで」「いつまでも」ツリーの星を手の上に置く

素晴らしい海から上がる神様を待って二本のコーヒーの缶

ファミリアの幻想じみてくっついた雛を見ている「俺らに似てる」

部屋にいる彼らの我らは我々で彼らになれぬエンタメをする

死なないでよかったですって思いますけむいけむたい黄ばんだ糸で

「一本ください」「珍しいな」「お祝い」肺活量を試すくらいの

ふたりしかいない世界にゆくときはおれの往復切符をやるよ

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