かたなには名前があると知らされた冬に家出の準備はじめた
三十年凝った澱の増減を指差し確認 引越しの夜
指差した地図に神の名あり窓の外にもやはり神の名があり
オゾンホール以西に引っ越すため箱をイオンモールで拾い集めた
バス停でお喋りしていたときだって不安じゃない時なんてなかった
廊下には十の段ボール箱あり いつつに減らせるはずだと思う
事実だけ述べるためには数量を量れるものしか口にできない
だらだらと涙を流せない場所でかわりに延々葱を刻んだ
執行を猶予されてるだけの日を重ねた先で待ち合わせよう
決めたならスタートボタンを押したあとまた次の意志を素早く示せ
駅からは徒歩で三十分海からは人魚の足でも足りる
広島県広島市海辺神社前あとは音楽記号をふたつ
「違います。濁音です。音楽の。そう。音楽の。そう。それで」
眠れない家から眠れない家へ 大丈夫 包丁はもうない
ニトリにてまっかな包丁求めおるにんげんの血をまだ知らぬ赤
ざざざっと思い出したのよ葱の中ぼったり落ちた液体を見て
人の血をおぼえたかたなに指先をそっと滑らせ「わたしのものよ」
号葱切 あまたの憎悪を吸い込んでわたしの懐刀となれ