外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

実在 Ⅱ 自殺者一名 『ラグナロク』

神様になるってことはお祈りで生きるってこと約束をした

あいのうた いきのびるうた にんげんの しんぞうのおとをわたしはにくむ

もう二度とわたしに会えない朝ですとねえさんが言う水蜘蛛に言う

裏庭はここにありますお父さんラグナロクから無事戻ってね

わるいこだわるいこだって呼んでいるたかまがはらから降る虹の音

平坦な寝床に満ちた死者の国で待ってると姉さんの声

ねがいごとだけを信じて鳥たちは眠っているからひとりで飛んで

解けたらひとつひとつの物質の融解点を冷静に撃て

潰された牛乳パックになりたくて父さんわたしをいい子と呼んで

コンデンスミルクを煮よう週末は体全体ばらばら死体

一度二度三度唱えて猫の名を今日も必ず助かっている

かみさまのために生きてる寂しさのサックスカラーのシフォンのドレス

ハルノヒをただ待っている晴れた朝 いつか いつかの 泣くほどの歌

兄さんのふりをしている からっぽの箱のなかみを見ないやさしさ

忘れたい蛇の庭ではない場所で生まれて育って生きていること

飴玉買っときました。大丈夫。雪の降る日に君の家です。

足首がこきんこきんと鳴るたびに肯定されたような気がした

十分な花だったんだ 神様の目にもかがやきは映った

らくらくと椿を踏んで振り返る行き止まりのない道があります

裏庭で生まれる前のできごとを全部忘れてもういいんだよ

永遠のかわりにあしたの弁当の卵焼きを正しく焼いた

またいつかカナリアオペラは開演し呪いのようにたからかな百合

神様を信じることはお祈りを愛のありかをただ辿ること

ハルノヒは明日はじまるのですよと静かな声で娘は言った

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