外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

架空 Ⅵ(裏庭)

漂流のあとで拾ったおさなごの名前のための最初の仕事

魔女笑うバスの窓から目をそらしわたしは魔女で空を飛びます

蒙昧な妹のふり続けたらわたしはいつか海辺の迷子

まっしろ で あるかぎり救われているアスファルトには白いラインが

裏庭を探し続ける日々であり鍵は大蛇の喉の奥です

ほんとうの学校へゆくあの子ならかなしいときにもお菓子をもらう

月が見ているよいつでも追ってくるあの月だけがほんとうなんだ

おとうさんどこにいるのと鳴く蛇に世界樹の葉をそうっと落とす

一人称変えたら魔法の杖になる色鉛筆の黒の明瞭

裏庭のやわい地面を踏みしめて見上げたときに僕は生まれた

雲だけが僕らのコミュニケーションでおなじかたちはもう二度とない

人形を並べて遊ぶ姉さんが彼らはみんな死んだと言った

密室の人形芝居の終幕は必ず主人公の自殺で

戦争は一回休みにしておいて板チョコレートをふたりで分ける

目を閉じて開いてシーンの間違いを探さないまま明日は学校

窓ばかり大きな部屋で僕たちは桜の匂いの夢をいだいた

ゆめのあとあなたの足跡を追って追っていたから道はもうない

昔火の鳥をみたとき僕たちの名前は楽園の子供だった

ここで起こることの全ては幕間の夢なんだから忘れていいよ

けしごむは小さい方がじいさんで死ぬなんてこと簡単なんだ

要らないよ ただ夜肌に指を乗せゆるく微笑みあえればそれで

人形が戦争芝居を続けてるおもちゃ箱ごと焼却したの

乱反射しているグラウンドは敵で正しい光を愛したかった

魔女を知ることが最初の恋だった海辺にふたりの家を作ろう

穏やかに足を千切ってほらあなたわたしを抱き上げなくてはだめよ

傷つかぬ光であってまたたいて大気の歪みに気づかず死んで

空を飛ぶ方法論を講義するあなたはとてもきれいな足だ

うたうためうまれたきみは神様によく似ているね 死なないでよね

ぼくの猫死んでしまってさくら木の夢みる土のなかに埋めます

楽園の扉のはてで鳴らされたピアノソングを忘れないでね

ゆびさきでほろびのじゅもんをとなえたらあなたほどけてぬかるみだけが

さよならをいうのはやめて 草原にたったひとりで眠らせないで

兄さんの慟哭はもう聞こえない 洞窟の戸をぱたんと閉じた

革命だなんて大きな声を出す前にごはんを食べてしまって

低気圧警報はお菓子の家だけを除外してると魔女の警告

おさない木もっとみどりになりなさいピアノソングを養分として

存分な世界がここにある限りおまえはひとりにはなれないよ

「魔女なんて実在しない」だから何? 僕だって色鉛筆の黒でしかない

セミデタッチドハウスの向こうでは言語が違うと思いなさいね

おとうさん約束しますラグナロクまでに必ずマッチの船を

ミステリーツアーの闇夜小指から伝わる熱はほんとうだった

地の底の水を汲むため僕らはキスをして呼吸はそれきりもうしていない

理解ならとうに与えられていたはずだよあんたがそこにいたんだ

ふいに海の底がぽかりと抜け落ちて僕は一陣の風であった

僕たちはもともとひとつのものだった 虹渡る野を龍は走った

裏庭はここにあるんだ 楽園は けれどここにはとうさんがいない

僕または僕らは砂漠で目をさまし僕ら自身のかがやきを見た

わたくしはシステムでありあなたであり世界の全てのほむらなのです

backyardから声がするのでみんなまだ戦争のことを忘れちゃいない

ともだちになろうよ僕らは死なないよ桜が散ってしまったあとでも

くりかえし魔法の呪文をあげるからあなたわたしのかみさまでいて

なにもかも空想上の僕たちの架空の責務のため 空を飛ぶ

新しい記事
古い記事

return to page top