外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

神様に生まれた罪

永遠に終わらぬ夏を生きている兄と過ごすような人生

「罰なんだよ」知ってる声だ。「ずっとおまえが悪かったんだ」

ああそれなら最終行にたどり着く前にページを破り捨てよう

旧悪を数え上げてはああこれは人ではないな膨張剤だ

ずれてゆく世界のサイズが唐突でいつ間違えたのわからない

目を凝らし走る以外の方法でしか見つからない崩壊起点

アンコントローラブルを卓上に置かれて「これはおまえのものだ」

こわいならこわいよねって言ってくれ手を上げてくれ憎悪してくれ

過去ログを参照された瞬間に割れるつないだゆびさきがある

朗読をいまでも続けていらっしゃるのですか床に釘を打ち付け

昨日まで繋がっている気がしてた切断面をじっと見ている

知りもしない人間だけがぐるぐると踊る座席で膝を抱えて

永遠に終わらぬ曇りの夕暮れの同級生の短い悲鳴

死んでいく皆死んでいくことをいつ知ったの?いつ裏切った?

「将来の夢は機械の人間になってみんなを殺すことです」

あんたまだ自分が正気でいることをまさか信じているつもりなの?

猫が鳴くために生まれついているだけのことだよはないちもんめ

ある日ぼくは、しろいとりをのみました。ぜんぜん味がしませんでした。

そうやってあそことここを見分けてる賢い子供が生まれた話

昨日、きみ、もっとぼくに似ていたよ、って話を、伝えなかった

嗚呼あした目が覚めたときたぶんもう誰もぼくには似ていないんだ

「アセトアルデヒド」呪いの呪文だ。「べつべつに生まれたってこと」

間違った王国を作りたいでしょう? 雑草まみれで朽ち切るための

兄さん、あんたは聖者で被害者で、手が汚れないふりをしていい

神様はだいぶん前に死んだってことは今度はおまえの番だ

「神様はお怒りです」「大丈夫」「もう死んだもの」「もう死んだもの」

死後の色を纏った兄が笑ってる「知ってる、おまえは、おれを××××××××××

「神様はお怒りです」「でもこれプロダクション通ったよ? 合法だよ? みんな喜んでるよ?」

「待ってるよ」「ほら」「みんな会いたがってる」「はやく」「おまえ最高だよ」「そのままでいい」「ありのままの君で」

死に方はあの日おまえが台本を上手に書いてくれたじゃないか

おまえが神様の役。おまえは死体の役。おまえは「それ実質同じだよね?」っていう役。はい。始めて。

人間は歌うときのみ鳥類であとは落下をただ抗えず

振り返るいつからあんたはぼくよりもうしろにばかり突っ立ってるの

まるはだかにされることさえ怯えてたちいさなちいさなもういない夢

落下するたびに嗚呼、と目を開く、魚が、また、一匹、逃げ出した

指先から爪の先に至るまで跳ねる魚がわたくしでした

美しい女に向かって告げている「魚が消えたら人に戻れる」

あどけないわたしの猫のため耳の奥から魚を引きずり出した

「さあこれで最後だ。おれは愛という愛をすべておまえにやった」

ずっとむかし、おれは魚の本当の悲しみのほかない場所にいた

人類に羽も鰓も牙すらもないということ「事実」

火星には水がないって話だよ たぶん楽だね 進化論だね

兄さんが落下していく青空をあしたぼくはたぶんわすれる

「鯖なんてすぐに腐って毒になるだけって知ってるくせにどうして?」

おぞましいほどにやさしく平等でずるがしこかった女神を殺す

ぼくの猫が路地で喘いで気絶した ぼくによく似た男だった

おまえのぶん憎悪と嫌悪と憂鬱を食べておくから次を始めて

血まみれで生まれてきたの舞台ではピンスポットがわたしに当たる

神様! 助けて! 落下が終わらない! 「いやだよなんの義理があって?」

おまえだけは俺と遊んでくれるよね? 一生子供でいてくれるよね?

兄さんにだけ教えてあげるから俺の野生の本性を見て

ねえ兄さん俺はいい子で賢くてどんなねずみでも差し出せる

俺と同じ顔をしてない人間がひとりもいないはないちもんめ

猫たちの王国に住む能力を手に入れました月が短い

孤独には名前がついていないだけずっとましだと知っていたのに

「ほらこれがおまえの孤独の名前だよ。大丈夫。お兄ちゃんがついてる」

なにもかも聞こえる耳を生まれつき持っていたから燃えないゴミだ

価値のない滅びてゆかんとする国で尻尾を振ったただののらねこ

神様は言った。「神様に生まれついた罰を捨てたい」

裏切り者。裏切り者。裏切り者。裏切り者。裏切り者。俺の神様。

ある冬の朝の路傍に一体の屍体がひとつ 保健所を呼ぶ

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