外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

実在 Ⅱ 自殺者一名 『閉所恐怖症』

ねむれないこどもが布団でつぶやいた短い詩文を捏造しよう

いまそこで鳩がわたしを見ています。そしてわたしはここにいません。

窓のない国を地獄と呼んでいたかなしい子供がまだそこにいる

窓枠が四角いことが気になってどうにか歪めるために眠れぬ

意地悪をしてるときだけ笑ってる硝子を磨いて磨いて壊す

すばらしいミルクコーヒーを飲んでいるアイドル歌手の架空のまつげ

バッテリー百個で一日乗り切れるわたくしになれ リサイクルしろ

だらだらと続けてゆくさ五円玉首から下げて君を逃がして

共感や愛情や執着あります特価一キロあたり千円

おはなしをしているのはわたしではない誰かのおすすめの葱

ご自分を見つけ出したら裏切りを知る前にすぐくびりころして

かなしみの色を街ゆく千人にたしかめて続けて明日の天気を告げる

ふわふわを探しています永遠は不必要です青が好きです

春になるまえに忘れることリストちぎってちぎって一日二錠

悪い子になりたくて夜服を脱ぐ ばかだから電球が読めない

ビー玉でできた身体をおしやるとビー玉が、きゅ、と鳴る音がする

棄てられてゆくということわたくしをみんな遺していくボール箱

おわったの?そうじゃないなら嘘でいいからTSUTAYAにはもう行かないで

切実に最終回を求めてるのに新刊はバトルのさなか

はこのなか詰め込んだ個はころされてゆくのかゆくのか生きているのか

棄てられる本のさなかでわたくしが空の所在をうしなう話

死んだほうがいいんじゃないの?大丈夫?背骨が折れるまで戦える?

読まれない本のかなしみさもなくばかなしむことさえ知らぬ枯無垢

価値のないわたしは本を盗み来てけれどももとの獄戸へ差した

棄てられてるかなしみさえもしらなくて誰も読まないまま逝きました

じんじんとやってくるのは百万年読まれないまま朽ちてゆく本

もう二度と二度と二度ともう二度と金の舟には乗りませんから

充足を覚えたいだけうつろなるミルクコーヒーLINEに流す

ずるがしこいお姫様からLINE来て王子の首の数を訪ねる

赤すぎるトマトスープを中心にわたしが主人公ではない踊り

柿を切るためにほんじつ生きました 本日限りの約束でした

おまえは 責任を 回避して いる と怒鳴り声 チップはこちら

存在しなくてもいいのに自販機のあかりのなかに蛙がひとり

こわくてもかなしくても爪が欠けててもお月様の味のチーズだ

愛された猫だったこと冬の日に君がミルクを差し出したこと

うつくしい場所がほしくて偽物の薔薇を買い来て猫に散らした

店長の遺していったペヤングは汚染されてはおりませんので

雪のない国で生まれた子のために落水紙をばらばらにする

円周の範囲の外に連れて行く満員電車をまた見送った

精神をうつくしくする化粧水amazonで買う 大根も買う

あなたを信じません。サンふじの赤いところだからです。

ばらの野を踏めなくて冬カクテルの味がしなくてばら野がほしい

あおじろい熊を探して深山へと分け入っても分け入っても青い

くもり空 凍った国の伯爵は氷の朝はやさしいと言う

知っている?ブラックホールでは音が聞こえないからあなたはいない

ドーナッツかじってこれを夕飯と言いはるための強い心臓

やさしさを持たない枕を殴っては殴っては目がなくなってゆく

眠らせてなんにもないを模造してわたしはいませんわたしはいません

神様のひたいにぽつんとにきび跡 イートインにはまだ早すぎる

ふわふわを信じられないクルーラー百個を食べずに終わらせる生

てっぺんが禿げてるひとになりたくてどうしてもおじいちゃんになれない

てにはいらないもの。禿げ。お髭。子供に見せる輪っかの煙。

オムライスだけが正しいたまねぎを使っています閉ざされてます

嘘だけが信じるに足る神だから、あなた、待ってた、会いたかったわ

もっともっともっとあかるくお喋りをイエローバロットみたいに飛んで

ハイビーム浴びた気持ちを父さんと呼ぶのをやめたらおとなに いやね

行旅死をひとひらひとひらみつめてる おとうさん?いいえ、わたし、わたしよ

帰宅する勇気がなくてドーナツの最後のひとつと心中します

生存を賭けるということ誰ひとりりんごの味を知らない星で

そのあとは自動機械に閉ざされたいつかの歌の話をしよう

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