遙か遙か未来のいつか、空を飛ぶ飛行船のなかを、自在は走っていって、車いすに乗った老女に出会う。窓を眺める彼女の隣にたち、自在は、「何が見えるの?」と尋ねる。
「わたしに聞いているんですか?」
真っ白い髪をした老女は、自在を振り返り、尋ねる。
「そうだよ、おばあちゃん」
「わたしのことは、おばあさんじゃなくて、セシリアと呼んでください」
「セシリア。セシリア、なにを見てるの?」
「雲よ」
「ふうん。おもしろい? 僕も見ていい?」
「ご自由に。……あなた自分のことを、僕と呼ぶんですね、女の子なのに」
「そうだよ、いけない?」
「いいえ、すてきだわ。なんだか夢の中で、そんな女の子に会ったことがあるような気がしますよ」
ふうん、と自在は言う。飛行船の旅は長く退屈で、自在は、話し相手を見つけたことに、うきうきしている。
「ねえ、セシリア、おなかがすいたら、椅子を押していってあげるからね。ご飯を一緒に食べようね。僕、プーティンが食べたいな」
「あなた、ご両親は?」
「パパはお昼からお酒のんでてさあ、不良なの」
「あらあら、それじゃ、ふたりでご飯をいただきましょうね」
「雲を見てからね」
「ええ」
「空を飛ぶのって、どんな気持ちだろう」
「知りたい?」
「ううん」
自在は首を振る。
「僕、いつか、飛んだことが、あるような気がする」

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