もういいよ世界を救うとこよりも紙飛行機の飛ぶとこ見よう
私は死んで、ジャータカとなった。
ジャータカとは、現在世界に蔓延している、兎の形をしたジェル状の生命体に私が名づけた名である。これは仏教用語であり、この言葉を私は、かつて赴任していた仏教系の学校で学んだ。ジャータカとは、前世の物語を示す言葉である。かれらは生まれ変わった存在であり、ゆえに私はかれらを、ジャータカと呼ぶ。
ジャータカは人間やそのほかのものを喰い、ジャータカとして生まれ変わらせる。これがひとつ。
私はこのほかにいくつかのことを知っている。
まずもっとも重要な点、ジャータカは、似鳥喜多子という名の女が生み出している。この女は、私の人生(かつて、人間であった頃の生)における、唯一の恋人であった。
彼女についてはいずれ語ることができるだろう。次の一点。ジャータカに飲まれた人間たちのうち、ある特定の条件を満たしたものは、もう一度人間の形で生まれることがあるようだ。彼女たちは生前と変わらぬ……いや、生前によく似た、しかし整形された姿をとって、生まれ直す。そして、不思議な能力を駆使するようになる。
彼女たちのことを、魔法少女と呼ぶ。
これは私が名づけた名ではない。似鳥喜多子が名づけたのかもしれない。あるいは彼女たちの「活躍」を目にした、まだジャータカと化していない人間たちが、あるいはすでにジャータカと化したものたちが、そう呼んだのかもしれない。魔法少女とは耳慣れない言葉だが、意味するところは私にも理解できる。魔法を使う少女のことだ。私の幼い頃にも、そういったアニメ作品が多数作られていたように記憶している。もっとも私の頃は彼女たちは、魔女っこ、と呼ばれていたように思うのだが。
かつて夜長映子という名が私の姉のものであった頃、姉はそういった作品を好んで見ていたし、私も姉のとなりで、それを見ていた。それを見ていた私の感情についてはまた後ほど。
姉の感情については知ることができない。彼女が夜長映子という名前で生きていたのはもう遠い昔の話だ。彼女は名前を持たない存在となって長い。死者は名前を持たないのだと私は考えている。ジャータカがもはやジャータカであり、個体識別されることなくすべてジャータカであることと、それは同じことだ。
ジャータカとは、かつて人間であったものの名であり、それらはもはや人間ではない故に、彼らは一度、死んだのだ、私はそう考えている。彼らは人間として、死んだのだ。
似鳥喜多子は連続殺人犯である。
ゆえに、私は彼女を止めることが、彼女への救済であると信じる。
私はジャータカである。
私は似鳥喜多子に殺された。

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