密やか

龍になりたかった

 川の奥、上流の、山の中に入っていくあたりに、あの子が佇んでいる。みんな、あの子なんていない、木がそう見えるだけと言うけど、ほっそりと立つ髪の長いその子のそばまで、泳いでいきたいとずっと願っていた。  川は広く深く、渡った橋の上から、年嵩の…

愛される役目

 マッチ箱ひとつを大切に持っている。中にはマッチが一本入っている。赤い頭に棒がついた、ごく普通のマッチ。手に入れたときには既に、マッチ棒が一本入っていただけだった。これを宝物にしようと思った理由はない。ないというと言いすぎかもしれない、これ…

黄色い部屋

 その店には入り口が三つあり、それぞれの入り口が、ひとつだけの座席に繋がっている。赤い扉、青い扉、黄色い扉を抜けると、赤い部屋、青い部屋、黄色い部屋に出る。私は黄色い部屋が好きだ。黄色いと言っても、黄色いクッションがひとつと、デスクランプの…