王子は河原まで辿り着くと、息をついて、服を脱いだ。体を覆っていた絹の服を一枚一枚、川に流して、一番下の肌着だけになった。でも肌着すらも金の刺繍が施されていて王子が王子だということをしめしていた。王子は仕方なく、肌着を脱いで、はだかになって、河原の石で肌着を傷つけ、汚して、ぼろぼろにした。
 背後には燃え上がる城がある。王子が暮らした城に残ったものを、誰かが拾うだろうか、と王子は思った。あそこで暮らした日々のひとつひとつ、宝石、時計、それから、母親が王子より大事にしていた人形の、青い目も、誰かが拾い上げて、誰かの人生に紛れていくのだろうか。
 王子は汚した肌着を身につけ直した。髪を乱して、顔にも泥を塗った。顔を上げると、燃え上がる火の粉が天高くとんでいくのが見えた。嫌いだったな、と思った。自分より愛されている人形のことが、嫌いだったな。人形の髪はよく燃えた。
 火をつけたのは王子だった。人形の金髪を燃やしたかっただけだったのだったが。その人形のことを、王子はずっと、兄さん、と呼んでいた。

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