私の猫

 寝る前にコーヒー牛乳を飲むのはやめて。
 たくさんお願いしたことのひとつだ。茉優がお願いをすると、ウイはいつでも笑って、「そうするよ」と言ったものだったが、コーヒー牛乳の習慣だけはなくならなかった。コーヒー牛乳はカフェインとカロリーなので、夜に飲むべき要素はなにひとつない、というのが茉優の主張だったが、ウイは笑って「でも美味しいから」と言った。
「それにこれから運動をするので、目が冴えたって別にいい」
 茉優は呆れた。そしてキスをした。コーヒー牛乳の味。
 眠れなさがうつる、と思う。
 茉優自身は、カフェインは一日一杯、朝食のあとに飲むと決めている。ウイは朝食に合うように起きてくることがなかったのだが、こちらは揃えてくれるようになった。夜、どんなに「運動」をしたとしても、しっかり起きてきて、一緒にオートミールとスープとゆで卵を食べて、コーヒーを飲む。まあ、そもそも茉優は、その前に白湯を作って水筒に入れて、ランニングをしてきて、シャワーを浴びて白湯を飲んでから、ウイのための朝食を作るのだが。そこまでは別に、お願いはしていない、何もかも一緒でなくても、別に、いいと思っている。
 健康極まりなく生きている。肉体が健康であればあるほど、強さが表せると思っている。欠点を指摘されないように生きた方が、いざというとき役に立つと思っている。そしてべつに、ウイにもそうであってほしいとは願っていない。
 ただ、肌に触れる頬や指や唇が、そして髪が、手触りよくあってくれればいい、とは思っている。
「君の猫」
 ウイは歌うように言う。猫。そうなのかもしれない。ウイの髪質に合ったシャンプーを選び、ウイの髪を乾かしてやってトリートメントをつける。頬に落ちる髪がとげとげして痛いと嫌だから。「運動」をするとき、すべてがなめらかに指の上を動いて欲しいと、茉優は願っている。だから内側から綺麗になってほしいとも、願っている。
 精神までどうこうしようとは思わない。
 朝食のとき、牛乳を出すようになった。いまでは茉優も、ウイと同じ量だけ、コーヒーに牛乳を入れる。コーヒー1に対して牛乳を2、いれるので、淹れるコーヒーは一杯分でいい。倍に増やした甘いコーヒーは、ウイが人生に現れなければ飲まなかっただろう。コーヒー牛乳でも、きちんとカルシウムは摂れるのだろうか、確認していないから、知らない。
 夜のキスと同じように、朝のキスもやはり、コーヒー牛乳の味がする。歯を磨いてね、と、唇を離した茉優は告げる。ウイは笑って「仰せのままに」と答える。
 同じ車の助手席に乗り込む。今すぐ車を出さないと赤信号にひっかかると知っているのに、舌が潜り込んでくる。茉優が選んだ、ミントの香り。
 髪が頬に触れる。猫の毛の柔らかさで。赤信号なんて知ったことかと思う。もう一度キスをする機会が増えるだけだから、髪を掴んで引き寄せて、同じ匂いの舌をさしだしている。

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