外マドレーヌ─哉村哉子いろいろ置き場

ケーススタディ山口君の場合 1-1

Q,山口菜種君はサラリーマンを経て唐突に菓子職人になると言い出しフランスに留学して帰ってきたアラサー男性、辻菜摘さんはサラリーマン3年目で公私ともにめちゃくちゃになった結果自殺未遂で入院後鬱を通院治療しながら現在アルバイトで食いつないでいるアラサー女性である。ふたりの関係を述べよ。

A,元カノです。

「あれを付き合ってたっていうかっていうとさあ」

というのは辻さんの弁であり、辻さんのほうには別の言い分がある。山口くんは納得ができない。大学生のころに同棲してセックスしていたらそれはつきあっていたと言うと思う。

「いやでもヤッただけじゃん。好きとかではないじゃん」

「ひどいことをおっしゃる!」

「好きとかではないですね」

「マジで!? 辻ちゃんそれマジで言ってるの!? おれの初恋辻ちゃんだよ! たぶん!」

「嘘だよ。ぜったい嘘だよ。おまえロリコンじゃん」

「ロリコンではないです……」

「ロリコンであることを受け入れがたく思っていたところにぎりぎり許容範囲の女が来たから飛びついただけだよ。性欲というものを知ってからこっちセーフの女が君の人生にいなかっただけだよ。なんならいまでもいないだけだよ」

「たぶん僕男の子のほうが好きなんですよ」

「ああそう……待って?」

辻ちゃん帰ってきました遊んでくださいよとSkypeで言われたので、辻さんは(仕事の切れ目で死にかけていたところだったし)ごはんをおごってくれるならいいと返事をした。辻さんはLINEが嫌いである。最初から嫌いでいまをもって憎んでいる。しかしかつて辻さんはたったひとりと繋がるためだけにLINEをスマートフォンにインストールし、それきり何の連絡もないそのアプリをスマートフォンに入れっぱなしにしている。その話はいまはとりあえずいいのだが、それはともかく辻さんは大抵Skypeで連絡を取り合うし、それは学生時代から変わっていないので、学生時代の友人知人はSkypeで気軽に辻さんに連絡を取ってくる。彼らの出身学部の関係上、鬱病で半死半生の人間の確率は極めて高く、辻さんはそういう意味では人間関係に恵まれていた。

そういう意味では。

辻さんはテーブルの上に膝をついていわゆる「ゲンドウポーズ」を取った。

「ちょっと詳しい話を聞かせてもらいたいですね」

「ああそうあのさあ辻ちゃん、――が好きじゃん」

「好きだよ! だからなんだよ!」

「なんでキレるんだよ」

「非腐に自ジャンル出されたらとりあえずキレるに決まってるだろうが舐めてんのか男オタクのこと一ミリも信頼してないからな」

「なんで皮膚の話!? 僕も観てました! 推しは○○くんです!」

「ああそう………………はい?」

「あの辻ちゃんあのね僕ねえ」

そうして山口くんは元カノ(山口くんの自認による)を呼び出した理由は帰国したのでよりを戻したいとか鬱だから心配だとか金がないみたいだから飯くらい奢るとかいう話ではないということを厳粛に告げた。涙目だったのは彼の本意ではなかった。

「△□かける○○」

 

教訓:

腐女子でも腐女子じゃなくても、大きい声を出していいお店かどうかは十分確認の上、大きい声を出していい店でおおいに騒ぎましょう。

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